CULTURE丨2026.10.23
クリストファー・ノーラン監督の大胆な配役が生きた『オデュッセイア』 トラヴィス・スコットが冒頭から残す強烈な存在感

メイキング写真
photo by Melinda Sue Gordon © Universal Studios. All Rights Reserved.
クリストファー・ノーラン監督の『オデュッセイア』で、トラヴィス・スコットが短い出演ながら強烈な印象を残している。演じるのは、英雄の物語を人々に語り聞かせる吟遊詩人。声と言葉で聴衆を引きつけてきたラッパーとしての経験が、古代の語り手という役に生きている。
冒頭、トラヴィスはオデュッセウスの武勇を語り、言葉の区切りに合わせて杖で石の床を打つ。その語りはにぎやかで力強いが、普段の音楽活動をそのまま持ち込んだようには見えない。ラップで培った言葉の運びを役に溶け込ませ、古代ギリシャを舞台にした物語の一員として場面に収まっている。

photo by Melinda Sue Gordon © Universal Studios. All Rights Reserved.
ノーランが壮大な叙事詩をどう映画化するのかと身構えていると、いきなり吟遊詩人姿のトラヴィスが現れる。その意表を突く始まりには、大胆さとユーモアがある。大作の重々しさを予想する観客を、思いがけない顔と語りで物語へ引き込む演出だ。
ラッパーを吟遊詩人に起用する発想には、原作とのつながりもある。『オデュッセイア』は、声と言葉によって語り継がれてきた叙事詩だ。ノーランは、その詩的な語りが生む感情やドラマを現代の観客に伝えるため、言葉を発して人々の注意を引きつけられる人物を求めた。トラヴィスの起用は、古代の口承文学と現代のラップに通じる、語り手と聴衆の関係に着目したものだった。
冒頭を語り手として担い、エンドロールでは楽曲「When I’m Home」に参加する。トラヴィスは演技と音楽の両方で作品に関わり、声で物語を伝えるという原作の性質を、映画の始まりと終わりに結びつけている。









