REVIEWS丨2025.06.20
インド映画版『エクスペンダブルズ』構想も!『ヴィクラム』はインド・バイオレンス・アクション映画の最重要作になる予感しかない

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いま、インド映画ファン、そして「ナメてた相手が、実は殺人マシンでした!」映画ファンに最も観て欲しいバイオレンス・アクション映画『ヴィクラム』。本作の製作・主演を務めるインド映画界のスーパーアクター、カマル・ハーサンが劇中で繰り広げるガン・アクションについて解説したい。
近接格闘戦で、スーパーアクターならではの貫録殺法を披露したカマル・ハーサン。銃撃戦でも彼は、他とは一味違う俺ジナルな銃選びのセンスを見せつけてくれる。カマルが大勢の敵を相手にジョン・ウー映画チックな二丁拳銃スタイルをアピールするシーンでは、スタームルガー LCRxという2013年に開発されたリボルバーを使用する。
しかし、地下倉庫の廊下でカマルが、反社組織の構成員たちを迎え撃つシーンではコルトシングル・アクション・アーミー、ウィンチェスターライフルという西部劇でおなじみの銃。他にも『RRR』(2022)でも描かれたインドが植民地支配された頃のイギリス軍の正式拳銃だったウェブリー=フォスベリーというようにクラシカルな銃をチョイスしている。
他にも軍隊並みの人数の敵との銃撃戦では年代物の大砲と、『ランボー最後の戦場』(2008)のクライマックス、ランボーがミャンマー軍兵士たちを挽肉の山にしていたブローニングM2重機関銃を使用。ここでは『ランボー』ほどの人体破壊描写はないが、ランボーとはひと味違う無双ぶりをスパークさせ、破壊のスペクタクルに満ち溢れたスペクタクルきわまりない銃撃戦を披露するので期待して欲しい!
先日、本作の字幕監修を担当した、『近現代南インドのバラモンと賛歌』の著者で「タミル語映画の字幕ならこの人!」と言っても過言ではないと小尾淳先生が登壇する本作の上映トークショーの聞き手を務めさせてもらった時に教えてもらったのだがなんと!本作でカマルが撃つ銃は、ほぼ彼のコレクションをだという……。母国ではスーパーアクターと崇められている方の財力から考えると、リボルバーやライフルだけでなくブローニングM2重機関銃も彼の大事なコレクションかもしれない……。が、本作は「クラシカルな銃が好き」という彼のセンスも知ることができるお得な映画になっている。
本作は1986年にカマルが製作・主演した「007」チックなアクション映画『ヴィクラム』の精神的な続編であることを前回の記事で書いた。実、本作のように1986年に前作が公開され2022年に続編が公開された映画はもう一作ある。『トップガン』(1986)と『トップガン マーヴェリック』(2022)である。ちなみにトム・クルーズは続編撮影時は60歳。カマル・ハーサンは68歳。その歳になっても、36年ぶりに製作・主演した続編でトガりまくったバイオレンス・アクションをアピールするカマル先生の感性は画期的に素晴らしい。
実際、かなり若い感性のオーナーのようで、本作のアクション監督を務めたアンバリヴ(アンヴマニ&アリヴマニ)の才能にほれ込み、自身の237作目の主演作の監督を任せようとしている(ちなみに『ヴィクラム』はカマルの主演232作目)。
本作は、本国ではローケーシュ・シネマティック・ユニバース映画と呼ばれている。ローケーシュ・シネマティック・ユニバースとは、本作の監督ローケーシュ・カナガラージが生み出したユニークな設定で、彼の監督作『囚人ディリ』、『ヴィクラム』、そして6月に日本公開する『レオ:ブラッディ・スウィート』(2023)は同じ世界の出来事として作られている。
そうなると『ヴィクラム』の前に『囚人ディリ』を予習しておいた方が良いのでは……とお思いの方もいるでしょうが無問題!たしかに『ヴィクラム』は時間軸的には『囚人ディリ』の後の出来事で、『囚人ディリ』のキャラクターが数人登場する。しかし、『ヴィクラム』から観ても充分楽しめる作りになっている。とはいっても、この機会にローケーシュ・シネマティック・ユニバースに入門してもらって『囚人ディリ』と『レオ:ブラッディ・スウィート』も楽しんで欲しい。
さらに言わせてもらうと、6月に日本公開する『レオ:ブラッディ・スウィート』の鑑賞前に、デヴィッド・クローネンバーグ監督の暴力映画『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005)を観て欲しい。なぜなら『レオ』はローケーシュ監督が『ヒストリー・オブ・バイオレンス』から過剰すぎるほど影響を受けた作品、というか『ヒストリー・オブ・バイオレンス』のインド映画リメイクと呼んでも過言ではない作品。二作を観比べると「あらすじは同じなのに、監督と出演者が変わると、ここまで仕上がりが違う作品になるのか……」と思わずにはいられない貴重な体験ができますから!
それにローケーシュ監督は将来的には、ローケーシュ・シネマティック・ユニバースの住人――『囚人ディリ』、『ヴィクラム』、『レオ』の主人公たちが集結するインド映画版『エクスペンダブルズ』のような映画を作るつもりだとか!というわけで今後、インド・バイオレンス・アクション映画史的に最重要作になる予感しかない『ヴィクラム』を是非、スクリーンで観戦してください!
文・ギンティ小林