REVIEWS2025.04.10

流行に迎合しない、派手な爆発や大げさな演技はいらない 鬼才フィンチャー監督の演出が光る復讐アクションの傑作『ザ・キラー』

ザ・キラー

Netflix

デヴィッド・フィンチャー監督のNetflix映画『ザ・キラー』には、最高のアクションシーンがある。90年代を過ごしたアクション映画好きなら必見の作品だ。「セブン」の脚本家アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーと再タッグを組み、「ファイト・クラブ」を思わせるような主人公のナレーションで皮肉めいたモノローグが散りばめられ、どこか哲学的な雰囲気すら感じさせる。そして、凄惨な死がこれでもかと描かれるが、「セブン」ほどサディスティックではなく、よりストレートなアクション映画だ。

マイケル・ファスベンダー演じる殺し屋が主人公で、彼は緻密な計画を立て、感情を排して仕事をこなす。だが、あるミスが原因で恋人(ソフィー・シャルロット)が巻き込まれ、復讐に走ることに。フィンチャーの演出が光るのはここからだ。独特のレンズフレア、暗闇でも鮮明な映像、静かなと漂う不穏な空気。フィンチャーの手にかかれば、ありがちな復讐劇も見応え抜群だ。派手な爆発や大げさな演技に頼らずとも、観る者をじわじわと引き込んでいく。

特に殺し屋とザ・ブルート(サラ・ベイカー)と呼ばれる相手とのひたすらに続く4分間の容赦ない肉弾戦は圧巻だ。最近のハリウッド大作はVFXに頼りすぎて戦闘のリアリティが薄れることが多いが、本作の戦いは痛みを感じるほどリアルだ。観客もそれを自然に感じるからこそ、没入感が違うだろう。フィンチャーは、時間が伸び縮みするかのような感覚を見事に再現している。痛みや恐怖に直面すると、数分が永遠に感じられる。それが映画の中でも見事に表現されている。

フィンチャーは、流行に迎合せず、ただひたすらスタイリッシュで静かで冷たい、でも確かな熱を秘めた復讐アクションを作り上げた。『ザ・キラー』は映画ファンに「こういうのが観たかった」と思わせる傑作だ。

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