MOVIE2025.08.10

菅野美穂さん、赤楚衛二さんがとてつもなく魅力的、めちゃくちゃイキイキと呪われている 映画『近畿地方のある場所について』白石晃士×背筋 (聞き手・ギンティ小林)

近畿地方のある場所について

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

「このホラーがすごい!2024年版」で第1位を獲得した背筋さんによる話題のホラー小説『近畿地方のある場所について』を、日本が世界に誇るホラー映画監督・白石晃士が映画化!

オカルト雑誌の編集長が行方不明になった。彼が消息を絶つ直前まで調べていたのは、幼女失踪事件や中学生の集団ヒステリー事件、都市伝説、心霊スポットでの動画配信騒動など、過去の未解決事件や怪現象の数々だった。編集部員・小沢悠生(赤楚衛二)はオカルトライターの瀬野千紘(菅野美穂)とともに彼の行方を捜すうちに、それらの謎がすべて“近畿地方のある場所”につながっていることに気づく。2人は真相を確かめようとするが……という不穏な物語を描いた原作は、“近畿地方のある場所”にまつわるオカルト雑誌に掲載された記事、事件関係者の証言、ネットの掲示板の書き込みなどで構成され、細かいディティールが積み重なって得体の知れない恐怖を漂わせていく、読み物が持つ力を見せつけてくれる作品になっているので未読の方は是非!
ちなみに僕は心霊スポット取材もしていて、オカルト雑誌で仕事をした経験もあるが、本書に書かれたオカルト雑誌の編集部のディティールの細かさには圧倒された。映画では赤楚衛二さんが演じる編集者・小沢が“近畿地方のある場所”に関わるようになる動機が、「過去に掲載された記事からセレクトして、リーズナブルな別冊オカルト本を作る」というのもオカルト雑誌ではよくある事。だから、原作を読んだ出版関係者の間では、「あれはオカルト雑誌を出版していた●●社をモデルにしているのでは?」という憶測が飛び交っている。ちなみにモデルと噂されている出版社の地下資料倉庫も映画に登場する出版社の地下室のように「出る」ことで有名だ。

そんな原作を映画化した白石監督は、原作の文字情報のディティールの積み重ねに対して全編にわたり、臨場感がありすぎるPOV映像などの厭な視覚情報を積み重ねて、恐怖を高めていくことに成功している!しかも、白石監督作のファンなら満足すること間違いなし、な白石監督にしか作れないホラー映画に仕上げただけでも偉業なのに、原作ファンも納得させる事ができる『近畿地方のある場所について』の原作の映画化に成功している。

というわけで今回、監督の白石晃士さんと原作者の背筋さんのお二人に映画のメイキングをうかがってきました!(聞き手・ギンティ小林)

登場人物がイキイキと呪われている

――『近畿地方のある場所について』を 映画にするためにアレンジされた部分で背筋さんがお好きなシーンをぜひ聞きたいです。 

背筋 シーンというよりはキャラクターですね。菅野美穂さん、赤楚衛二さんはじめとするキャストの方々が演じられる登場人物がとてつもなく魅力的になっていて。原作ではある種、無色透明に描かれてた登場人物が、めちゃくちゃイキイキと呪われますから(笑)。そこは原作には無い魅力をプラスしていただいた気がして作者冥利につきます。

――原作では、かつてオカルト雑誌に掲載された記事や関係者の証言で構成されている部分が、映画では白石監督ならではのPOVの魅力がスパークした動画にアレンジされていましたね。

背筋 まさに映像ならではのザラついた感じが出てますよね。林間学校のシーンは良かったですね~!

――原作では林間学校に参加した元中学生のインタビュー記事でしたが、映画では林間学校の教室で付き添いのカメラマンが撮影した動画になっていました。

背筋 あのシーン、モノが映るわけじゃなく変な声が聴こえてくるだけですが、とてつもなく悪いことが起こってる感じを臨場感を出して撮られるな、と思いました。生徒がバッタバタと倒れていくなか、声だけで響いてる異常な様子も「まさにこれだ!」という感じでウキウキしながら観てました(笑)。

――他にも原作本では、老人が取材者に語る「ある場所について」の言い伝えが、映画ではかつてテレビで放映された『まんが日本昔ばなし』(1976~2006)風のアニメになっていたのが見事でした。

白石 『昔ばなし』の発案は背筋さんなんです(笑)。 あそこの原案は背筋さんに新たに書いていただいて、 それを脚本に落とし込んだんです。

――つまり映画版『近畿地方のある場所について』の中で、背筋さん原作のアニメも楽しめるんですね! 

近畿地方のある場所について

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

津山三十人殺しが心スポ凸!?

――他にも映画がアレンジした部分では、原作ではいわくつきの廃墟に潜入する様子を掲示板でレポートする関西軍曹と名乗る登場人物が、映画では津清山三十人殺しの都井睦雄が大量殺人を行った時の武装スタイルのコスプレをした配信者「凸劇ヒトバシラ」になっていて驚きました(笑)。

背筋 そうなんですよね(笑)。

――しかも、都井睦雄のコスプレのディティールも細かく再現したうえで、詰襟をカラフルな色にしたり、タクティカルグローブを装着したりしたリアリティのある不謹慎なキャラクターに仕上げたのは見事でした(笑)。 

白石 ああいう不謹慎なキャラクターが廃墟に不法侵入して配信をしている時に怖い目に遭う、というのはホラー映画のひとつの定番だから面白いな、と思って。都井睦雄の格好にしたのは演出部から出たアイデアだったと思うんですけど、僕も当然好きなキャラクターなので……都井睦雄雄夫のことを好きなキャラクターというと語弊があるんですけど……。

―― 気持ちはわかります!

白石 大好きな『八つ墓村』(1977年)の多治見要蔵(山﨑努)のモデルにもなったので、ホラーとかやっているクリエイターには、 すごく心を刺激される人間ですから。 そういう好みがちょっと出たというのもありますし、不謹慎さは極まっているなと思ってやった感じです。 

背筋 (凸劇ヒトバシラは)すごい好きですね(笑)。「ぶっ叩くよ!」みたいなことを言ってたじゃないですか。 そういうワードチョイスとかも含めて、すごく「ぽい」と思いましたね(笑)。廃墟に侵入してカメラを意識しながら配信してるけど、めっちゃビビってる感じとかもすごい伝わってくる。最終的に泣いちゃうところも含めて「いいな!」と思いました。

――白石監督作ならではの不謹慎なキャラクターですよね。クライマックスに登場する【あれ】が映像化された姿はいかがでした? 

背筋 大好きですよ(笑)。【あれ】は私の作品の解釈を白石監督が通り越して、さらに次元が高いところに引き上げていただいたので。 

白石 最後に【あれ】はちゃんと見せたい、と思っていたんですが、それがチープに見えないように最新の注意を払いましたね。【あれ】のCGは、Spade&Co.という日本一と言っても過言ではないCG・VFX制作の会社にお願いしたんですよ。リモートで何度も打ち合わせを重ねてデザインを作っていただいたんですが、Spade&Co.さんの方がだいぶ疲弊するくらい直しを繰り返しやっていただいて……。それで、あそこまで到達することができたという感じです。

――クライマックスの【あれ】の行動は映画オリジナルの展開で白石監督作の魅力が炸裂したシーンですが、ちゃんと『近畿地方のある場所について』の映画版に仕上がっている、不思議な作品ですね。

背筋 たしかに不思議な映画ですよね(笑)。

――この映画は、本当に二人の仲良しの映画監督と原作者が作った『シャイニング』(1980)ですよ!

白石 核融合できたのかな(笑)。 背筋さんが原作者としてすごく協力的だったんですよ。 普通だったらちょっと怒られるかな、というアレンジまでやって「どうかな……」と思いながらご提案はしたんですけど、総受けしていただいたみたいな感じでありがたかったです! 本当にやりやすかったですね(笑)。 

背筋 ただ、私は逆に白石監督の立場だったら嫌だな、って思うんですよ。 「ファンです!」ってこんな感じでずっと見られている中で、映画を作らなければいけないのはプレッシャーというか……。 

白石 たしかに、打ち合わせで「もうちょっと白石監督っぽくお願いします!」と言われた時は若干のプレッシャーがありましたけど(笑)。

――でも、白石監督のファンの方が書いたホラー小説を、白石監督が撮る事で新たなホラー映画の名作が誕生した、って素晴らしいですよね。パンクロッカーのイギー・ポップに似ていますよ!彼は、「イギー・ポップをリスペクトしている」と公言する活きがイイ若手アーティストを探しては、次のアルバムのメンバーに引き入れて進化を続けていますから。

白石 そう言っていただけると……(笑)。

近畿地方のある場所について

©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

『近畿地方のある場所について』は8月8日 (金) 全国公開

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