REVIEWS2025.04.22

“パソコンをいじってるだけのオタク”が暴走、戦わずに「ソウ」のような手段で復讐を果たす風変わりなスパイスリラー『アマチュア』

アマチュア

復讐系スパイスリラーは、特殊訓練を受けた主人公が、あらゆる敵を力でねじ伏せながら、最終的に悪を裁く――といった展開が観る者を惹きつける。しかし、ゲイリー・オールドマン主演のスパイドラマシリーズ「窓際のスパイ」のジェームズ・ホーズ監督による映画『アマチュア』は、その設定からはみ出してくる。

主人公チャーリー・ヘラー(ラミ・マレック)は元殺し屋でもなければ、銃の扱いに長けた男でもない、CIAの暗号解析官だ。劇中でも「パソコンをいじってるだけのオタク」と揶揄される存在だ。チャーリーの妻のサラがある日、偶然テロ事件に巻き込まれて命を落としてしまう。悲しみに暮れるチャーリーは、指揮系統などは無視して自分の手で犯人に復讐を果たすることを決意。老練な教官ロバート(ローレンス・フィッシュバーン)がチャーリーを訓練で鍛えようとするも戦闘スキルも体力もない彼には当然限界があった。訓練を受けるも散々な結果になる。実際に手を汚すことの難しさに直面する設定はリアルで面白い。

本作の見所は、チャーリーが持ち前の知識と知恵でテロリストたちに巧妙な罠を仕掛け、ひとりずつ制裁を加えていくシーンだ。ジェイソン・ステイサムが「ソウ」シリーズにでも出演したかのような戦い方だ。劇中で、2棟の超高層ビルの屋上をまたぐプールとそこを泳ぐテロリストを丸ごと破壊して地面に落とすシーンは必見だ。マレックは非戦闘員らしい弱さと、それでも一歩踏み出す勇気をちゃんと見せてくれる応援したくなるタイプの主人公を好演している。復讐に燃える冷酷な暗殺者というより、悲しみを抱えたナイーブな技術者といったイメージで、亡き妻への愛が歪んだ形で暴走しているようにも見える。

スパイジャンル全体が型にはまりすぎて、印象に残らない作品ばかりになってたが、『アマチュア』はいい意味で予想を裏切ってくる。カタルシスは少し足りないが最後までちゃんとスリルと緊張感を保ってる。無理やりユーモアを入れたり、派手なアクションで誤魔化したりしがちだが、そういう路線にも逃げてない。脚本や登場人物の弱さがやや否めないが、筋の通ったスパイスリラーを観たいなら、一見の価値ありという一作だ。

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