REVIEWS2025.06.20

銃で12発ぐらい撃たれて、大量の地雷を避けて… 映画内の描写は“本当にリアル” 脱北した元北朝鮮兵士が語った韓国映画『脱走』

脱走

©️2024 PLUS M ENTERTAINMENT and THE LAMP LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

止まったら、即死亡! 自由を夢見る脱走兵 イ・ジェフン vs 愛憎に狂う追跡者 ク・ギョファン… 韓国きっての2大実力派スターの豪華共演で、命がけで脱北を試みる軍人の姿を描いた話題の追走劇『脱走』(6月20日(金)新宿ピカデリーほか全国公開)。

舞台は、韓国と北朝鮮の軍事境界線地帯。まもなく兵役を終える軍曹ギュナム(イ・ジェフン)は、自由を求め韓国への脱走を計画。脱北を決行しようとするも、可愛がっていた部下の下級兵士ドンヒョク(ホン・サビン)に計画を狂わされてしまい、先を越されてしまう。そんなドンヒョクを必死に制止しようとしたギュナムだったが、警備兵に見つかり、2人揃って逮捕されてしまう。だがギュナムの幼馴染で、保衛部少佐のヒョンサン(ク・ギョファン)により、ドンヒョクを捕まえた英雄として祭り上げられてしまい、ギュナムは前線部隊から平壌に異動することになってしまう。自由もない、夢もない、他人の決めた運命から一歩も抜け出せない人生に嫌気がさしたギュナムは、再び走り出すことを決意…。ヒョンサンの目を盗み、再び軍事境界線を目指して決死の脱出を試みる。しかし、そこには予期せぬ困難が立ちはだかるのであった。脱走のタイムリミットは2日間、果たしてギュナムは、生き延びることができるのか…!?

そんな本作をダイアログコーチとして監修、美術部や演出部にも協力、流浪者の射撃手役で出演もしているチョン・ハヌル氏に話を聞いた。実は、このチョン氏、兵役中の2012年夏に北朝鮮から韓国へ命がけで脱北するという“リアル「脱走」”を実行した人物なのだ。映画にも負けないぐらいの壮絶エピソードの数々が飛び出すこととなった。 

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ーめちゃくちゃ面白かったです!コーチングをする上で一番大変だった事はなんですか?

やはり北朝鮮の方言を教えることですね、監督と話して「これなら大丈夫だ」という所までやって欲しいということになったんですが、何度もカットになる俳優さんもいました。それを伝えるのも俳優さんに申し訳なくて…。実は、有名な俳優さんがオーディションに来たのですが、北朝鮮の方言がやはり難しかったみたいです。

ーイ・ジェフンさん、ク・ギョファンさん、ソン・ガンさんの北朝鮮の方言はいかがでしたか?

イ・ジェフンさんは、北朝鮮の方言に接するのは初めてだったようです。ですが驚くほどの消化力でした。私が最初にセリフを録音して送ったんです。その1ヶ月後にチェックする機会があったんですが、9割以上ピッタリと正確に話していました。驚きましたね。ソン・ガンさんも上手かったですね。

ク・ギョファンさんは… かなり自由なスタイルな方なので(笑)「モガディシュ 脱出までの14日間」の時に北朝鮮の方言を使って演じたみたいなんですが、コーチングなどはされなかったようで、「フィーリングでやった」と言っていました(笑)。今回コーチがついてすぐ上達しましたね。

ーイ・ジェフンさん、ク・ギョファンさん、ソン・ガンさんとの印象深いエピソードを教えてください。

とにかく3人は一生懸命でした。みんなキャラクターが違って面白かったですね。私が韓国に来て初めて見た映画が、イ・ジェフンさんの「パパロッティ」だったんです。それまで私は「韓国の人はなんでお金払ってわざわざ映画を見るのだろう?」と思っていたんですね。しかし、「パパロッティ」を見て、その理由がわかったんです。もともと大好きな俳優さんで今回お会いできて、しかも一緒に映画もできて夢のようでした。本当に嬉しかったです。
ソン・ガンさんは少し寡黙な印象があったので、こちらからあまり声をかけないようにしていました。しかし、そんな感じではなくソンさんの方から沢山話しかけてくださいました。ク・ギョファンさんは…もう、とにかく面白い方でしたね(笑)おかげで楽しく過ごせました。

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ー凄まじいシーンの連続だったんですが、どれぐらいリアルなんですか?

ありがとうございます(笑)私も今まで20回以上観たのですが、本当にリアルなシーンが多いんですよ。私がアドバイスしたシーンでもあるんですが、軍服を裏に返すと名札がついてるんです。それを見ると北朝鮮の人は 「スゴい!」と驚くと思います。

ーそうなんですね!では、ギュナム(イ・ジェフン)が捕まえた猪の肉を部下に配るシーンは本当にあるんですか?

部下に肉を配るのはないと思いますね(笑)まず、猪を捕まえた場合ですが、電気柵に引っ掛かって捕まるということはあります。そうすると師団に電話連絡が行って、電気柵の電気をまずシャットダウンして報告しなくてはなりません。そして、師団から上級部隊に連絡が行ってしまうので上層部の方でほとんど食べられちゃいますね(笑)下っ端の軍人はあってもスープだけ…になると思います。DMZ(非武装地帯)の中で地雷に引っかかった場合はもっと不可能ですね。ただ、将軍様の言葉を見せながら「肉をたくさん食べさせなさい」と言うシーンがあるのですが、それは実際にあります。

ーギュナムみたいな優しい上司はいないぞと

うーん… 100人のうちに1人…… いますかね?(笑)あんなに優しい上司がいたら脱北してないかもしれません(笑)私が知る限りではいませんでしたね!

ーヒョンサン(ク・ギョファン)やパク(チョン・ジュンウォン)のような方は…

ヒョンサンみたいな人はいました!ああいう人はいます!(笑)私の周りでもいましたね。パクみたいな怖い上司もいっぱいいますね。軍の組織なのでそういう人が多いです。

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ー映画の中で韓国のラジオを隠れて聞くシーンがあるのですが…

私はラジオは聞いてませんね。チラシを気楽に拾うのも怖いので。拾ったとしても隠れて読みます。もちろんラジオも隠れてですね。見つかったら大変な目に遭うので!ただ、昨年、脱北者に会ったんですが、その人は聞いてたみたいです。

ーなるほど… チョンさんが脱北を思い立ったきっかけを教えてください

映画にも出てくるんですが、最前線に配置されると韓国の近くに立ってるので少し見えるんですね。韓国は夜空でも明るくて、木が茂ってるんです。北朝鮮は暗いし、木もないんです。チラシも落ちていて、そこには「韓国は経済力が豊かだ」って書いてあったんです。それに結局いつまで経っても統一されなくて…自分の中で何かが全て崩れました。それで脱北しようと思いました。

ー兵士の中で脱北の話など出てくるんでしょうか…?

絶対に言えないです!本当に仲良くなっても、話さないと思いますね。親にも言えません。命がかかってるので。手紙なんかもチェックしているので住所も書けません。私の場合は話しませんでしたね。チラシの話ですが、別の兵士がチラシを拾ってきたんです。私にそのことを話してきて「おかしいんじゃないか?誰にも言うなよ!」って言ったぐらいです。

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ーチョンさんが脱走をした話をお聞かせください

1人で計画を立てました。数ヶ月前からどういう経路でいけばDMZに行けるか?考えました。軍人はどれくらいいるか?地雷はどれくらい埋まっているか?… 映画内のギュナムのようにイメージトレーニングを何回もしました。そうしているうちに2012年8月にチャンスが来たんです。電気柵が台風で壊れました。そこで「行こう」と決意しました。いざ実行に移すと、まず軍にバレて12発ぐらい銃で撃たれたんです!

ー映画とほぼ一緒じゃないですか!

そうですね(笑)映画の中は軍人と銃撃シーンが少し多いんですけど、まあ、ああいう感じです。地雷の数も凄いんです。よくわからない猛獣もいます。そこを避けて一気に駆け抜けました。映画にもありますが、沼にもハマりました。本当に胸の方まで沈みました。木の枝があって捕まって… ギリギリで助かりました。

そして、DMZにあるススキが広がる畑に隠れて一晩寝ました。脱走に18時間ぐらいかかりました。専門家に聞くとDMZに逃げ切って生還する確率はかなり低いみたいです。天運が味方しただけだと思っています。本当に感謝すべきことですね。

脱走
チョン・ハヌル氏

『脱走』は記6月20日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

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