MOVIE2025.02.10

ラスボスは志々雄真実、キングギドラのようにめっちゃ強い、圧倒的に強い悪役じゃないと成立しない 『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』谷垣健治インタビュー〈後編〉 (聞き手:ギンティ小林)

香港映画のアクションの変遷は、世界中のアクション映画に多大な影響を与えてきた。いや、アクション映画全体の流れを変えてきた、と言っても過言ではない。

その証拠に1970年代は『燃えよドラゴン』(1973)などのブルース・リー主演作によって地球レベルのカンフー映画ブームが勃発。1980年代にジャッキー・チェン、サモ・ハンたちが開拓したトリッキーで危険なスタント満載の格闘アクションは、今も世界中のアクション映画界でフォロワーを増やし続けている。さらに80年代は『男たちの挽歌』(1986)などの作品でジョン・ウー監督が描いた、華麗かつファンタジックなガンアクションが登場し、『マトリックス』(1999)など世界中の映画のガンアクションに強烈な影響を与えた。

1990年代にジェット・リー主演作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズ(1991~1997)で使用されたワイヤーアクションは、『マトリックス』に導入されて以来、世界中のアクションの主流テクニックとなっている。そして2000年代に『SPL/狼よ静かに死ね』(2005)、『導火線 FLASH POINT』(2007)などの作品でドニー・イェンが開拓した総合格闘技を取り入れた格闘アクションは、「ジョン・ウィック」シリーズ(2014~2023)などに影響を与えている。

そして今、新たなアクション映画の流れを変える香港映画が誕生した!現在公開中のソイ・チェン監督作『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024)である。

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

舞台は1980年代の九龍城砦。香港に密入国し九龍城砦に迷い込んだ若者・陳洛軍(レイモンド・ラム)がそこで出会った九龍城砦のボス龍捲風(ルイス・クー)と彼を慕う若者たち(テレンス・ラウ、トニー・ウー、ジャーマン・チョン)と共に、九龍城砦の存亡をかけて黒社会の大ボス(サモ・ハン)や配下の王九(フィリップ・ン)たちと戦う、という熱い友情がスパークする物語に常軌を逸した格闘シーンが大量トッピングされたコンマ1秒も瞬きできないほど濃密な映画である。

そんな本作のアクション監督を務めたのは長年にわたり『SPL/狼よ静かに死ね』、『導火線 FLASH POINT』などのドニー・イェン作品を支え続け、ハリウッド映画『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021)のアクション監督も務めた谷垣健治。今回、谷垣氏に本作のアクションについてディープに語ってもらった。(聞き手:ギンティ小林)

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

――クライマックスの戦いでは、信一(テレンス・ラウ)はグリップに2本の小さいナイフが内蔵されたバタフライナイフを巧みに使いますね。

谷垣:脚本家の岑君茜のアイデアだったかと思います。ただ、バタフライナイフから2本のナイフが出てくるって本当にできるのかと。元のナイフ自体が短いですからね。実際に自分たちで段ボールでナイフを作って試してみたら、割とうまくいったんす(笑)。ちっちゃい武器ですがそれが大きな効果をもたらすのっていいよなあとも思いました。ところでバタフライナイフは『レイジング・ファイア』(2021)でニコラス・ツェーが 使っていましたよね?

――谷垣さんがスタント・コーディネーターを務めた作品ですね。

谷垣:あの作品で、ニコラスは戦う前にバタフライナイフを回すんだけど、アクションがはじまったら普通のナイフの使い方と変わらなくなってしまったのが僕はちょっと自分なりの反省点だったんですよ……。それじゃただのカッコつけじゃないかと(笑)。今回はアクションがはじまっても、バタフライナイフを回しながら主人公を追い詰めていって、次にどこから攻撃が来るかわからない感じになってるので、その点は面白くなったんじゃないかなと思います

――十二少(トニー・ウー)はドスや刀を使いますが、クライマックスでは負傷した右脚に『男たちの挽歌』(1986)のマーク(チョウ・ユンファ)のようにニーブレースを装着し、膝が曲がらない右脚を蹴りあげた遠心力で身体を回転させて相手を斬るスタイルがカッコ良かったです!

谷垣:あれは撮影中、ソイ・チェンが「脚は曲げないでね!脚を曲げたら、普通の人と同じだから!」って何回も言っていて(笑)。実は、本編には使われなかったけど、クライマックスで信一が十二少の脚が悪いことを利用して戦うシーンもあったんです。

――どういうことですか!?

谷垣:信一は十二少の脚を脚と思ってなくて武器のひとつとして利用する。信一が十二少の右脚を蹴り上げて、その勢いで回転した十二少が空中で、いつの間にか相手を斬っているアクションもあったんですよ。

――仲間を道具扱いするんですね(笑)。谷垣さんらしいハードコアな戦闘スタイルです!

谷垣:ソイ・チェンが何回も「足をまっすぐに!」と言ってたから思いついたアクションですね。撮影中はコロナの真っ最中でね、 現場とホテルの往復だけなうえに、午後6時以降はレストランも営業禁止なもんだから、ずっとアクションのことを考えていたんですよ(笑)。

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

――クライマックスの王九VS主人公4人について教えてください。

谷垣:当初はサモ・ハンがラスボスとして4人と戦うというプランもなくはなかったんですが、それだとちょっと老人いじめに見える可能性があるじゃないですか。『るろうに剣心 伝説の最期編』(2014)でラスボスの志々雄真実( 藤原竜也)が剣心( 佐藤健)たち4人とを戦ったのは、大友(啓史)監督の「『プロジェクトA』(1983)が1対3だったから、こっちは1対4でやろう!」というアイデアからです(笑)。僕は「素晴らしいシーンになった!」と大満足だったんですが、一部日本の観客の中には「主人公が4人で1人の敵をやっつけるなんてヒーローじゃない」という意見があって……ごくごく一部ではあるんですが。その話を香港のスタッフにしたら、「何人がかりであろうが勝てばいいじゃん」って言ってましたけど(笑)。

ともかく今回もこれをやるんであれば、フィリップをラスボスにしてむちゃくちゃ強い、それこそ無敵の設定にしないといけない!そこはかなり意識しました。

――この映画の原作『九龍城寨』は香港では漫画にもなった有名な小説化ですけど、映画版では自由なストーリー作りが行われたんですね。

谷垣:原作者の余兒はよく現場にも来ていましたが、何にも言わなかったですね。何しろ『シティーハンター』(1993)がああなっちゃった国ですからそこは自由ですよ(笑)。

――4人と戦う王九は気功によって自分の身体を無敵化するので「複数で戦ってもこいつには勝てないかも……」と観客を不安にさせますよね。

谷垣:王九が使っているのは実際には「神打」という種類のものですね。神打はラウ・カーリョンが『マジッククンフー 神打拳』(1975)で映画にした、極めると刀も槍も身体を通しません、という奥義なんです。だけど迷信的なんで。

――中国では「カルトや迷信を広める」と思われる映画は上映できないんですよね。

谷垣:それでもダメ元でやったら、やっぱりダメだったので編集の時点で気功という設定に変わりました。それを印象付けるようなカットもいくつか撮り足して。まあ見た目は神打も気功もそんなに印象は変わらないと思うんで。

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

――どんな攻撃も効かないボディのオーナーが悪役のカンフー映画といえば『ドラゴン修行房』(1976)や『ドラゴン太極拳』(1978)がありましたが、王九はそれ以上に無敵でした(笑)。最後は刀の破片を飲まされて、鍛えることができなかった身体の内側から破壊されていく、という倒し方はどのようにして決まったのですか?

谷垣:エンディングの撮影の真っ最中だったんですが、まだどうやって最後逆転するかが決まってなかったんです。「どうやって王九を倒す?」ってみんなに相談したら、これは信一(テレンス・ラウ)が言い出したんですよ。

――出演者たちは映画の中だけではなく、撮影裏でも王九の倒し方を考えていたんですね(笑)。

谷垣:信一が冗談で「王九が刀の破片を飲み込んだ時に、舌が切れて血がいっぱい出て」みたいなことを言ったんですよ。そこで僕とソイ・チェンが「ん!?それ、なんかいいかも!」みたいな 話になって、そこから「 確かに粘膜や内臓は鍛えられないかも・・・いや、鍛えられないということにしよう!」と決まりました(笑)。僕はその瞬間、藤子・F・不二雄の漫画『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』を連想しましたよ。

――どういうことですか!?

谷垣:『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』の主人公は全身の細胞がウルトラ・スーパーデラックス細胞に変異したことで超人的な能力を身につけたんだけど、最後はウルトラ・スーパーデラックス癌細胞の進化が早くて自分自身を支えられなくなるんですが、王九の最期でちょっと意識しました(笑)。

――あのカンフー映画史に残る激闘に、F先生の影響があったとは……(笑)。

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

香港では社会現象に!

谷垣:実は撮影の中盤ごろ、ルイス・クーは何回も「俺は途中で死んで大丈夫か?最後、若い4人だけで大丈夫か?」って聞いてました。

――映画の裏でもルイス・クーは若者たちを心配してたんですね(笑)。

谷垣:「俺は最後まで生き延びた方がいいんじゃないか?」みたいなことを何度も言っていて(笑)。最後に九龍城砦に突風が吹くところは、亡くなった龍捲風 (ルイス・クー)の魂が4人を後押しして、彼らに継承するという意味合いもあったので途中で退場して正解だったと思います。ちなみに龍捲風が死ぬシーンは、僕の中では『鬼滅の刃』の煉獄さんな感じなんですよ。

――自らの命をなげうって次の世代に託すんですね。『トワイライト・ウォリアーズ』は昨年、香港で上映されると社会現象になるほどのヒットとなりましたが、谷垣さんも現地の熱狂ぶりを感じましたか?

谷垣:公開した頃、僕はタイで自分の監督作(『The Furious』)をやっていたので香港にいませんでした。で、聞いたら、あの4人が アイドルみたいな人気になり、コンサートで歌を唄い、信一(テレンス・ラウ)が「全民老公(香港の国民の夫)」と呼ばれるようになって(笑)。映画を観に来た女子高生たちが、信一がバイクで登場しただけで「きゃーっ!」って歓声をあげてる、って。

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

――さすが国民の夫!十代のハートもがっちり掴んでますね(笑)。

谷垣:信一はまだわかるけど、四仔を演じて『HK/変態仮面』(2013)のようなマスクを被っていたジャーマン・チョャンが舞台挨拶するってなっても女子高生がものすごい列を作って(笑)。若手っていっても4人はみんな30歳超えてんだよ!それがアイドルのような人気になったから、十二少を演じたトニー・ウーは最近、歌を出しましたよ(笑)。

――千葉のヤンキーのような信用できる面構えの方ですね。

谷垣:そうそう(笑)。この間、僕が香港のスタジオで別の映画の撮影をやっていたら隣のセットで陳洛軍と十二少がCMを撮っていたんですよ。遊びに行ったらCMのセットが床屋みたいなセットになっていて。

――龍捲風 が九龍城砦の中で経営していた床屋に寄せたってことですよね(笑)。

谷垣:衣装も陳洛軍はジャージで十二少はタンクトップで、どんだけ乗っかってんだよ!って思いましたよ(笑)。

――『トワイライト・ウォリアーズ』がそれぐらい強烈な作品になったってことですよね。

谷垣:この間、香港でタクシーに乗ったら運転手が「ケンジさん!?ありがとうな!あんな素敵な映画を作ってくれて!」って感謝されましたし。『トワイライト・ウォリアーズ』のヒットは、香港人が「映画を楽しんでくれた」というのもあるけど、「みんなで盛り上げて大ヒットさせようぜ!」という感じの現象ですよね。こういうアクション映画を若い子がを楽しむのはわかるけど、お年寄りも2回、3回と観てるんですよ。多分、主人公の4人たちと同世代の人たちなんでしょうね。今の香港はまあいろいろと大変じゃないですか……。だから、一番勢いがあった時代の香港が舞台だから映画を観た人もたくさんいるんでしょうね。

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』は大ヒット上映中

WHAT TO READ NEXT