REVIEWS2025.04.08

勧善懲悪の構図を打ち出しながら社会風刺も効かせる… アクションとコメディを絶妙にブレンド、韓国映画の底力を見せつける傑作『ベテラン』

韓国観客動員数5週連続第1位、韓国観客動員数750万のメガヒットを記録した(2024/12/26 KOFIC調べ)映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』が、4月11日(金)より日本公開される。

ベテラン 凶悪犯罪捜査班

©︎2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED

前作『ベテラン』は2015年に公開され韓国で1340万人を動員し、韓国映画歴代5位超メガヒットを記録した。監督は韓国を代表するヒットメーカーで「密輸 1970」「モガディシュ 脱出までの14日間」などを手掛けてきたリュ・スンワン監督。主演は「ソウルの春」「工作 黒金星と呼ばれた男」「ナルコの神」など話題作に次々と出演し累計観客動員数1億俳優と名高いファン・ジョンミン。

『ベテラン』の主人公は、ソウル広域捜査隊の型破りな刑事ソ・ドチョル(ファン・ジョンミン)。検挙率100%、捕まえられない奴はいない、最高のベテラン刑事。正義感が強く、時に強引な手段もいとわない熱血漢だ。戦闘力が高く、1人でも犯人グループに突入するタイプで、仲間が合流した頃にはすでに修羅場を迎えている。賃金が安い警察官暮らしをしているが「金はなくても誇りはある」が信条だ。ファン・ジョンミンをイメージして作られたキャラクターと言っても過言ではない。

ベテラン

©︎2015 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

映画は、ドチョルが高級車盗難グループを追いかけるところからスタートする。港町・釜山を舞台にした捜査では、限られた空間を生かした迫力あるアクションやユーモアが展開され、序盤からテンポよく物語が進む。
高級車盗難グループ摘発後、テレビ局の制作パーティーに誘われて参加することに。そこで会うのが、財閥の御曹司チョ・テオ(ユ・アイン)。テオの傍若無人な態度に違和感を覚えたドチョルは、彼の過去を調べようとするが、上司から止められてしまう。ところがその後、ドチョルが以前から知っているトラック運転手が、自殺未遂で昏睡状態に。原因は、テオのオフィスで暴力と屈辱を受けたことによる未払い賃金トラブルだった。運転手の息子から届いた一本の電話がきっかけで、ドチョルは事件の核心に迫っていく。行き着く先は、韓国財閥「サンジングループ」の闇だった。
この事件から物語は一気に加速していく。トラック運転手を取り巻く理不尽な扱いに対して、ドチョルが正義を貫こうとする姿勢が描かれ、観客の感情を強く動かしていく。対する財閥側が問題を揉み消そうとする様子もリアルで、金と権力が人を守る一方で、正義が通らない現実が際立つ構成になっている。警察、病院の医師、新聞記者、果ては被害者家族まで、金で買収されていき、財閥の圧力によって正義がねじ曲げられていく。チョ・テオは社会的地位と資産を背景に、暴力的かつ傲慢な態度で周囲を支配しようとする存在だ。ドチョルがその巨大な権力と不正に立ち向かっていく過程で、社会の構造的な問題や権力の絶望的なほどの腐敗を浮き彫りにしていく。

『ベテラン』は、単なる警察アクションにとどまらず、現代社会における階級格差や財閥文化の歪みを取り上げた作品でもある。財閥の内部を描く場面では、過剰な礼儀作法や理不尽な上下関係への風刺が効いていて、観る者に笑いとともに問いを投げかけてくる。リュ監督は以前の「生き残るための3つの取引」で韓国社会の縁故主義を辛辣に描いたが、『ベテラン』ではそれよりもストレートに、財閥文化の理不尽さをユーモラスに皮肉ってる。会議中にオムツを履かされる幹部たち、四つん這いになってムチで叩かれるシーンなど、笑えるが笑えない現実がそこにある。

『ベテラン』は、登場人物たちのキャラクター造形が魅力的だ。ドチョルを演じるファン・ジョンミンは、荒々しさの中に人間味をにじませた演技で、作品の中心にしっかりと存在感を放っている。一方、ユ・アインはサディスティックな財閥の御曹司を怪演。自己中心的で破滅的なキャラクターを、生々しく演じている。また、女性キャラクターも印象的。ドチョルの同僚であるミス・ボン(チャン・ユンジュ)は、体術で男たちを圧倒する実力派。ドチョルの妻(チン・ギョン)も物怖じせず、権力者に毅然と対峙する場面が描かれており、映画にバランスと現代性を与えている。

『ベテラン』はアクションシーンも魅力的だ。いつものごとくリュ監督と息の合ったコンビであるチョン・ドゥホンがアクション指導を担当。クライマックスにかけてハードなアクションが連発されるが、ストーリーテリングにしっかりと軸足が置かれている。アクションは派手さよりもリアルさを重視。肉体と肉体がぶつかり合う接近戦が中心だ。終盤にはソウルの繁華街で繰り広げられるバイクチェイスと壮絶な一騎打ちが待ち受けており、あまりにも激しすぎて、観てる側も血の味を感じるレベルだ。物語の積み重ねが一気に解放されるようなカタルシスがある。
『ベテラン』は勧善懲悪の構図をはっきり打ち出しながらも、人間臭さと説得力を持ったエンターテインメント作品だ。アクションとコメディを絶妙にブレンド、社会風刺も効かせた韓国映画の底力を見せつける傑作となっている。

続編『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』への期待も当然高まる。財閥グループの次は連続殺人鬼との対決だ。法の網の目をすり抜けた悪人たちを粛正する報復殺人。犯人は殺人鬼か正義のヒーローなのか?ベテラン刑事ソ・ドチョルと、凶悪犯罪捜査班の刑事たちに新たな試練が訪れる。

ベテラン 凶悪犯罪捜査班

©︎2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED

『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』は411日(金)より全国ロードショー

WHAT TO READ NEXT