CULTURE2026.02.05

「歴史的作品になる」「ヒップホップ芸術の到達点」J・コール、待望の新作AL『The Fall-Off』に全世界が注目

ケンドリック・ラマー、ドレイクと並んで現代を代表するラッパー/トラックメーカーの1人、J・コール。その真摯さとインテリジェンスで、寡作ながらここ何年も米東海岸シーンを代表するどころか、今や孤高の域のアーティストと言っても過言ではない。

いよいよ2月6日にリリースされる予定の待望の7thアルバム『The Fall-Off』に全世界から注目が集まる中、1月に新MV「Disk2Track2」が公開されたが、あまりに画期的なラップとミニマルながら感動的な映像が話題を呼んでいる。

話題となっている理由はまず第一に“ラップで時間を逆行する”というかなり突飛な手法をとっている点だ。「俺にはこう見えるんだよ」と年老いた自分の視点から始まり、生まれる瞬間まで人生を逆行していくという挑戦的な構造で、冒頭では教会でコール自身の棺を運ぶ、まだ見ぬ孫たちを描写。「涙が頬を登って目に吸い込まれていく」と、本当に時間軸をリバースしていくのだ。

そこから時間を「先に進めること60年」、自分がようやくアワードで表彰される場面や、息子の出産の瞬間に息子と「別離」し、妻のお腹が次第に「小さく」なって「日々が過ぎて」いくたびに「ラップのキャリアが最優先になっていくのを感じながら」「結婚指輪を外す」。

その瞬間には「おいマジかよ、やめとけ」と自らツッコミを入れ、さらに時間が「進む」と青春時代に突入。「勝って、負けて、ヒーローの1人とレコード契約を結び」「ママが仕事を失って」「財布の中身を覗き込んだ時、“成り上がってやる”という野心はなくなっていく」「縮む背、おむつを履き始める」「すると父親がまた俺の人生に戻ってくるんだ/それまでは説明がつかなかった、心の痛みが不意に消えていくよ」と独白される。最後は「母が俺に名前をつけ、医者に手渡し、俺は自分の魂が逆行していくのを見る/そしてもうこの地上に俺はいないんだ、俺はもういない」とヴァースが終わる。

これが公開されると同時にネット上は絶賛で溢れかえり、「これがどれほどすごいラップなのか、みんな理解してるのだろうか」「アルバムは間違いなく歴史的作品になる」、中には「ヒップホップ芸術の到達点」とまでの評価もあった。

音楽とは時間が不可逆であるが故に、どうしようもなく時間芸術である。しかもラップはストーリー・テリング要素の大きいアートフォームだ。自由でありながら制限のある様式の中で、コールはライミング、ビルドアップ、緩急も見事なまま、なんと時間を逆行して見せるのだ。映画『TENET』あるいは『ベンジャミン・バトン』のように時間を遡る映画作品はあっても、数分のラップ作品で、ここまでの視点と密度のものがかつてあっただろうか。

しかも語られる物語は、あまりに普遍的で感動的だ。リスナーたちは、父親と「出会う」くだりなどでは「涙が出た」と言い、「もはやこれは救いだよ」とまでこぼす。気長に待っていたファンやヒップホップ・リスナーたちは、待った甲斐があっただろう。見事に揺さぶられているのである。最後に繰り返される「で、俺は誰だよ/何者なんだ/本物のニ◯ーがいくのが見えるだろ」と、何より自分のために証明しようとするライミングには、誰もが胸をえぐられるはずだ。

自身がMV冒頭の声明文で「何よりも自分自身のために、そしてヒップホップのために」作ったと説明しているように、人生とキャリアの全てを結実させるつもりで制作したのであろう『The Fall-Off』。

先行曲がこのレベルだとして、ならば他のトラックは果たしてどのレベルに到達しているのだろうか? ヒップホップに関わる誰もが無視できない新作になっているはずだ。