REVIEWS2025.04.12

贖罪と復讐、その果てにある破壊と喪失… 暴力の連鎖の中でもがく男たちの物語 『ただ悪より救いたまえ』

ただ悪より救いたまえ

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『ただ悪より救いたまえ』は「新しき世界」のファン・ジョンミンとイ・ジョンジェが共演した韓国バイオレンス・アクションの傑作。監督は「チェイサー」「哀しき獣」などの脚本を手がけたホン・ウォンチャン。引退を決意した腕利きの暗殺者インナム(ファン・ジョンミン)とその男に義兄弟を殺された殺し屋「ザ・ブッチャー」と呼ばれるレイ(イ・ジョンジェ)が壮絶な死闘を繰り広げる。

本作における最大の見所は、ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェという韓国映画界を代表する実力派俳優の演技合戦だ。ファン・ジョンミンは抑えた演技で、傷ついた男の内面を静かに表現し、対するイ・ジョンジェは狂気を孕んだ存在感で観客を圧倒する。元殺し屋と復讐に燃える殺人鬼―設定だけ見るとありがちな対決モノに見えるが、この映画はそんな生易しいものではない複雑で濃密なドラマが詰まってる。
ただの追跡劇じゃない、インナムの贖罪とレイの復讐の二重構造になっており、そしてその果てにある破壊と喪失が描かれる。ストーリーの展開も予想を裏切るものばかりで、観ている側は何度も不意を突かれる。

アクションシーンも巧みに演出されている。街中でのド派手な銃撃戦に、「ボーン」シリーズばりの屋上チェイス、接近戦の格闘、最終的には大混乱のクライマックスまで、いずれも緻密に構成され、単なる派手さだけでなく、人物の背景や感情が反映されているため、シーンごとに意味がある。泥臭くリアルなアクションが多く、終盤にかけて激しさを増していく。とくに印象的なシーンのは、物語の中盤の「オールドボーイ」を想起させる廊下での戦いのシーンだ。カメラワークやスローモーションの使い方、編集のリズムが見事で、観ているこちらの呼吸までコントロールされているような感覚を覚える。

『ただ悪より救いたまえ』は暴力の連鎖の中でもがく静かな怒りと哀しみを抱えた男の物語だ。アクションと感情が絶妙に絡み合った力強さと美しさを持っている作品だ。復讐劇というジャンルにこれほどの深みを持たせられるのは、やはり韓国映画ならではだろう。

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