MOVIE2025.07.30

「九龍城砦」からフィリップ・ンとは親友。演技に関しても暗黙の了解で通じ合う 『スタントマン 武替道』テレンス・ラウ インタビュー(聞き手:ギンティ小林)

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』(2024)から香港映画にハマった方は当然の事、香港映画を愛するすべての人に今、最も観て欲しい香港映画『スタントマン 武替道』(全国公開中)。

主人公は、スタントマンの命が最も世界中で軽かった80年代香港アクション映画を支えた伝説のアクション監督サム。演じるのは、『燃えよドラゴン』(1973)の冒頭の名シーンで、ブルース・リーから、「考えるな感じるんだ!」というありがたすぎる教えを授かる少年を演じたトン・ワイ。その後の彼は類まれなアクロバットスキルを活かして『霊幻百鬼 人嚇鬼』(1984)やテレビドラマ『香港カンフードラゴン少林寺』(1983)などの作品に出演。さらにアクション監督業にも進出し『男たちの挽歌』(1986)、『ブレード/刀』(1995)、『セブンソード』(2005)、『孫文の義士団』(2009)などの作品に携わるようになる。つまり、香港アクション映画界にとってはリビング・レジェンド。

そんなトン・ワイ演じるアクション監督サムが、『スタントマン』では数十年ぶりに新作映画のアクション監督を任されることになる。サムは、スタントマンを目指す純朴な青年レイ・サイロン(テレンス・ラウ)を助手に、人気アクション俳優リョン・チーワイ(フィリップ・ン)主演映画の現場に臨む。が、しかし……いまだに、スタントマンに「NOと言わせない」80年代香港アクション魂が骨の髄までしみ込んだサムと現代的な撮影スタイルを望むリョン・チーワイたちは事あるごとに対立してしまう……。

という物語の中にスタントマンの現状、スタントマン哲学、スタントマンの誇り、スタントマンの哀しみ、スタントマンの生態、スタントの撮り方といった必修科目的な要素だけでなく、スタントマンの家族になった方たちの想いも絶妙に盛り込んだ、香港映画を愛する者なら涙なくては観る事ができない感動作品! 今回は劇中で80年代香港アクション映画に憧れてサムの助手になる若きスタントマン、レイ・サイロンを演じたテレンス・ラウさんのインタビューをお届けします。(聞き手:ギンティ小林)

スタントマン 武替道

©2024 Stuntman Film Production Co. Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

――『スタントマン 武替道』(2024)を観て香港アクション映画がさらに好きになりました!

テレンス おお!ありがとうございます(笑)。

――この映画に出演した動機のひとつが、トン・ワイさんとの共演を楽しみにしていたと聞きましたが?

テレンス そうです!僕は子供の時からトン・ワイさんが出演したテレビドラマや映画をずっと観てきましたから(笑)。彼と共演するなんて夢にも思っていなかったので、今回はすごく楽しかったです。 

――そう言われるとテレンスさんが好きなトン・ワイ作品が気になります。 

テレンス トン・ワイさんが出演したアクション映画は全部好きですけど、やっぱりブルース・リーと共演した『燃えよドラゴン』(1973)かな。デビュー間もない頃のトン・ワイさんの姿を観ることができますので(笑)。

―― 『燃えよドラゴン』でトン・ワイさんはブルース・リーの弟子でしたが、今回の『スタントマン』ではテレンスさんがトン・ワイさんの弟子になりましたね。

テレンス そうなんですよ!不思議な気分です(笑)。トン・ワイさんは大先輩ですけど、撮影現場ではとても親切で優しい方でした。とにかく時間をかけて相手を知り、 理解しようとしてくれるんです。だから撮影現場のトン・ワイさんは、空き時間があるといろんなことを一生懸命話かけてくれました。

スタントマン 武替道

©2024 Stuntman Film Production Co. Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

――どんな話をしたんですか?

テレンス 「映画撮影について」と「アクションについて」が多かったですが、プライベートの話もしましたよ。特にトン・ワイさんに教えてもらうアクションの話は勉強になりましたね。「こういうアクションの時は、こう撮るとイイ」や「こういう場面では、ワイヤーをこう使えばイイ」などの技術的な話が面白いんですよ(笑)。

――『スタントマン』で描かれたアクション監督とスタントマンの師弟関係は舞台裏でも育まれていたんですね(笑)。テレンスさんは本作でスタントマンを演じるため、撮影前にスタントチームで訓練をしたんですよね?

テレンス そうですね。スタントマンの動きを学ぶため、数週間かけてスタントチームと一緒に訓練をしました。今回はスタントマンを演じたので、『トワイライト・ウォリアーズ 決戦 九龍城砦』(2024)の時と違い、「主役にどう倒されるか」という練習がメインでした。

――スタントマンを演じたことで、アクション映画に対する意識の変化はありましたか?

テレンス ありました!もともとスタントマンは「映画撮影にとって大切で大変な職業だ」と尊敬はしていたんですけれども、今回『スタントマン』に出演したことによって自分の考え方はさらに変わりました。それまでは、アクション映画を観ると、スタントマンが殴られるアクションは数秒の間で終わってしまうので、「これは簡単だな」と思ったんです。でも、実際に自分がやってみるともうとんでもない……(笑)。実に難しいんですよ。

例えばスタントマンが顔を殴られる時、簡単なリアクションは頭を横に向ければ終わりなんですけれども、他にもいろんなリアクションがあるんですよ。ちょっとオーバーなリアクションだと、殴られたら前方に向かって空中で回転をして着地をする。 さらにオーバーなリアクションにする場合は、80年代や90 年代の香港映画で流行ってた、殴られたら空中でコロコロコロコロと540度の回転をした後に着地をする。

――キリモミと呼ばれるスタントですね?

 テレンス そうです。そういうリアクションはアクション映画の中で使われてもせいぜい1秒か2秒なんですよ。 ところが、これを訓練で習得するのはすごい大変なんです……。スタントマンを演じたことで、ちょっとしたアクション・シーンも噛みしめながら観るようになりました(笑)。

――『九龍城砦』ではバイクのマフラーで火傷したって聞きましたけど、今回の映画では怪我はありませんでしたか?

テレンス 今回は大きな怪我はなかったんですね。アクションの撮影では常に安全面を注意していたので。それよりも怖かったのは、6階建てビルの屋上からワイヤーで吊られて飛び降りるシーンでした。屋上に立って下を見ると怖いんですよ……。これを克服しなければいけない!というプレッシャーは感じました(笑)。

―― やっぱ6階って高いんですね。上から見ると。

テレンス そうそう!その通り。本当に怖いんですよ……(笑)。 

――映画ではラスト、その屋上からトン・ワイさん演じるアクション監督のサムが自ら落下スタントしましたね。

テレンス あのスタントは撮影でもトン・ワイさん本人がやっているんですよ!現場で見ていましたが本当に感服しました……。

――そもそも、何でトン・ワイさん自らスタントをやる事になったんですか?

テレンス トン・ワイさんは67歳ですが、アクションに対するこだわりが強いので「このスタントは自分でやらなきゃ!」と自ら提案したんですよ。それなのに実はトン・ワイさん、高所初恐怖症で……(笑)。「でも、仕方がない……まあ、よしよし!俺がやるよ!」と自らを奮い立たせて、落下スタントをやり遂げていました。現場で見た時には本当に感動しました! 

――イイ話をありがとうございます。その話を聞いたら、『スタントマン』のラストシーンがもう一度観たくなりました!

テレンス そうですね(と深く頷く)。

スタントマン 武替道

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フィリップ・ンとは暗黙の了解で通じ合う

――日本のファンが『スタントマン』 で楽しみにしてる事が、テレンスさんとフィリップ・ンさんとの共演です。

テレンス 今回でフィリップとは2回目の共演になりますが『九龍城砦』以降は、彼とすっかり親友になっているんです。話も合いますし、演技に関してもある種の暗黙の了解みたいなものがお互いにできている。
『九龍城砦』は予算をかけた大作でしたが、『スタントマン』は政府の映画制作ファンドの支援を受けて作られた規模の小さい作品なんです。低予算の作品なので、時間と予算がかかるアクション映画を撮るには、まずは撮影期間を短縮するしかない。この映画は20日ぐらいの期間で全て撮り終えないといけなかった。時間との戦いに関しては『九龍城砦』よりもハードルが高かったんです。
でも、フィリップとは2度目の共演で、暗黙の了解もできていたので、彼との芝居とアクションはスムーズにこなすことができました。 

スタントマン 武替道

©2024 Stuntman Film Production Co. Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

――『スタントマン』の中でも「最近の香港映画はアクション・シーンの撮影に時間をかけなくなった」という問題が描かれてました。そんな御時世にテレンスさんとフィリップさんは『九龍城砦』では、アクション・シーンの撮影だけに半年近くかける80年代香港映画のような撮影現場も体験していますね?

テレンス そもそも『九龍城砦』に出演するまでの自分は、アクション映画に出るなんて想像もつかなかったんですよ(笑)。 大学時代は、演技と現代舞踊を学んでいて舞台を中心に活動していたので、どちらかというと文芸作品の方向に向かっていたわけなんですけれど……(笑)。でも、人生って何が起こるかわからないですよね。『九龍城砦』と『スタントマン』に出演した事によって私の演技の幅にアクションという分野が新たに加わった気がしますが、今でも不思議なことだと思っております(笑)。

香港の映画制作の環境はどんどん変化していて、我々役者に対してだけではなく 映画のファンの皆さんに対してもいろんな影響をもたらしていると思います。 以前の香港映画は年間の製作本数が高く、海外市場の規模も大きかったのですが、今の香港映画は製作本数も少なくなって、海外市場の規模も小さくなっている……。そういった状況の中で映画に関わる人間としては、どうすれば映画産業を発展することができるのか? といつも考えています。『九龍城砦』や『スタントマン』に出演した経験を活かして、観客が望む映画や品質の高い映画を作っていかないと環境がどんどん悪くなってしまう……。だから我々としては、とにかく全力投球で良い映画を作ろう、という気持ちで毎日仕事をしています!

スタントマン 武替道

©2024 Stuntman Film Production Co. Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

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