MOVIE丨2025.08.22
ユ・ジェミョンさんの中から、悪の部分を引き出せたならば、“本物の悪”に見えるだろう 『大統領暗殺裁判 16 日間の真実』 チュ・チャンミン監督インタビュー

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軍事クーデターで政権を掌握し、独裁者と批判されるほど強大な権勢を振るった朴正煕(パク・チョンヒ)大統領。そんな彼が国のナンバー2とも噂された側近の中央情報部(KCIA)部長金載圭(キム・ジェギュ)によって、1979 年 10 月 26 日に暗殺された。『大統領暗殺裁判 16 日間の真実』(2025年8月22日(金)より全国公開)は、10.26大統領暗殺事件と12.12軍事クーデターという二つの歴史的大事件をつなぐ、「韓国史上最悪の政治裁判」を描く異色の作品だ。「メモ裁判」「性急裁判」と呼ばれた不正と密約にまみれた法廷の裏側をスクリーンに再現し、歴史に埋もれた人々に光を当てたのは、映画『王になった男』で観客動員1000万人を突破し、韓国映画界に確かな足跡を残したチュ・チャンミン監督。事実に基づく緻密なリサーチと大胆な想像力を融合させたチュ・チャンミン監督に、本作に込めた思いや演出の狙いを聞いた。
ー10.26大統領暗殺事件と12.12軍事クーデターの間に起きた話の映画化は珍しいというか初めてだと思います!
そうですね。この映画でとても大きな存在はパク・フンジュ(映画ではパク・テジュ)という人物です。大統領暗殺という事件そのものを描きたかったわけではなく、大きな歴史の中で犠牲になった、このパク・フンジュという人物に興味を持ちました。
ー監督から見てパク・フンジュはどのような人物なのでしょうか?
パク・フンジュという人物は清廉潔白で強い信念を持っていた人物です。これは100%事実に基づいています。
貧しい家庭環境の中で育って、陸軍士官学校を優秀な成績で卒業しています。多くの要職にもついているような人物です。周りからも将来は参謀になるだろうと言われていました。だからこそ実行犯であるキム・ジェギュも自分の隣、秘書官に置きたかったはずです。それほどまでの実力者で軍人精神が徹底されていたにも関わらず、映画でも描かれていますが、ずっと貧しい家に住んでいましたし、人に接する時にも権力を振りかざさない人物だったと聞いています。
そんな彼が大きな歴史に巻き込まれてしまって、ある選択をしますよね?それを自分に置き換えてみたんです。「自分ならどう選択するだろうか?どう生きただろうか?」と。そう思った時に、彼にますます興味を持ちましたし、映画の中で表現したいと思いました。

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ーこのパク・フンジュをモデルにしたパク・テジュ役にイ・ソンギュンさんを選ばれたのは何故ですか?
イ・ソンギュンさんはご存知の通り、すでにトップスターの1人でしたので、どの監督さんもイ・ソンギュンさんと撮ってみたいと思っていたはずです。
今回の映画ではまずチョン・インフ(チョ・ジョンソク)という存在があって、パク・テジュはその次でした。チョン・インフの方が比重が大きいので、「イ・ソンギュンさんは果たしてパク・テジュを演じてくれるだろうか?」と悩んでいたんですね。そんな時にイ・ソンギュンさんの方から「チョ・ジョンソクさんがチョン・インフ役をやってくれるなら自分もやりたい」と言ってくださいました。…もう本当に…とても嬉しかったですね。イ・ソンギュンさんならどんな役でも演じてくれるので。
私がイ・ソンギュンさんを選んだというよりもイ・ソンギュンさんに選んで頂いた、という立場だと思っています。

メイキングカット
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ーそうなんですね!イ・ソンギュンさんが共演を望んだチョ・ジョンソクさんですが、チョン・インフは今までの役柄と違うイメージでビックリしました
チョ・ジョンソクさんは幅広くどんな役でもなんでもできる俳優さんだと思っています。今まではシリアスな役は少なかったかもしれませんが、今回のチョン・インフ役を一番上手く演じられるのはチョ・ジョンソクさんだと思いオファーをしました。幸いなことに快く引き受けてくださいました。
ーチョ・ジョンソクさんとイ・ソンギュンさん、2人が対峙するシーンが最高でした!どのように作り上げていったんですか?
チョ・ジョンソクさんとイ・ソンギュンさんはこの映画を撮る前までは、ほとんど初対面に近い、そこまで親しい間柄ではなかったそうなんです。そこから映画と同じようにチョン・インフとパク・テジュの2人のようにどんどん親しくなっていき、理解し合う仲になって関係が発展していったんです。私自身も映画を撮っていく中で、「そうなってくれると良いなあ」と願いながら撮っていましたが、実際そのようになり、2人のケミがどんどん発展していく過程がとても興味深かったです。
ー2人のハイタッチのシーンは感動的でした!
ありがとうございます(笑)あのシーンは、どんな風にハイタッチをするのか?が大事だったので、いくつものバージョンを撮りました。最終的にイ・ソンギュンさんから照れくさそうにハイタッチをしにいくパターンになりましたが、とても興味深くて面白かったですね。

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ーイ・ソンギュンさんとの撮影時の思い出は何かありますか?
そうですね…。本当に色々とあるんですが、思いつくのは髭ですね。(実在の)パク・フンジュと同じように作りたいと思っていました。メイクチームは本当に難しい作業だったと思います。できるだけリアルに見せたいので1本1本顔につけていきました。髭をつけるためには2、3時間かかります。髭をつけた後は崩れてしまうため下手に食事もできません。イ・ソンギュンさんは一口だけ口にする日や食事を一切しない時もありましたね。そんな状態でも朝から晩までいてくれました。どんな時でも全く不平不満を言わずに演じてくださいました。
ーそんな2人に対するチョン・ドゥファン(映画ではチョン・サンドゥ)を演じたユ・ジェミョンさんも強烈でした。監督待望のキャスティングとお聞きしましたが、最初断られたと聞きました!
私がユ・ジェミョンさんに「チョン・サンドゥを演じて欲しい」と言ったのは事実です。このキャラクターのモデルはご存じのようにチョン・ドゥファンという韓国の現代史において大変重要な人物です。この役を演じるということは、多くの俳優さんにとってプレッシャーですよね?キャリアにとって難しい選択だと思います。演じることでたくさんの非難を浴びます。
確かにユ・ジェミョンさんは最初はためらっていましたが、私も沢山説得しました。今まで見たことがない、新しいチョン・ドゥファン像が見せられると思ってくださったみたいです。

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ーユ・ジェミョンさんは監督と一緒に役を作っていったと言っていました。どの点が一番苦労されましたか?
ユ・ジェミョンさんはとても紳士的で温和なジェントルマンなんです。彼に会うとあのキャラクターのような一面を見ることは非常に難しいんです(笑)
私がユ・ジェミョンさんにズル賢い狡猾な、蛇のような人物を演じて欲しいと思ったので「あなたの素晴らしい人物像はそのままキープしながらも、その中で“悪”を作ってほしい」とお願いしました。ユ・ジェミョンさんの中から、もし、悪の部分を引き出せたならば、“本物の悪”に見えるだろう、と。映画を観ていただければ分かるように、素晴らしいキャラクターを作り上げてくれました。

チュ・チャンミン監督
『大統領暗殺裁判 16 日間の真実』は2025年8月22日(金)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA他にて全国公開