REVIEWS2025.04.14

普通の青年が「麻薬王」に!? “こども部屋”に薬物1トン… 異色すぎる麻薬ビジネス界の“新顔”を追ったドキュメンタリー『こうして僕は麻薬王になった』

Netflixドキュメンタリー『こうして僕は麻薬王になった』は、まったくゼロの状態から麻薬の密売ビジネスを思い立ち、やがてはドイツ史上最大級の押収量となる1トンもの薬物を自宅の“こども部屋”に所持するまでの麻薬王となった青年の足跡を、本人の証言VTRや本人出演での再現映像を交えつつ辿る作品。とはいえ、いくら麻薬王といっても、このドキュメンタリーに登場するのは、中南米の麻薬カルテルのような血なまぐさい手合いではなく、麻薬と一番縁遠そうな、生真面目なタイプの青年。好青年にさえ見えてしまいそうな人物で興味深い。

母子家庭に育ち、友人もおらず、外出もしない日々を送っていた19歳の青年・マックスは、ある日、唯一無二に等しい趣味であり、活動ともいえるチャット仲間との雑談で、闇のオークションサイト『シルクロード』の存在を知り、初めてアクセスする。そこで彼は非合法な薬物などが公然と売買されていることを知って衝撃を受け、自身もバイヤーになることを志すと、そこから本格的な“起業”を夢見て、綿密なリサーチと試算をスタート。もともとマックス自身は薬物の使用歴はまったくなかったというが、自身が“一人のスタートアッパー”として、『シルクロード』よりも使い勝手の良いサイトを作れると確信したようで、彼はすぐさま現役のバイヤーに接触すると、そこでコカインとMDMAの仕入れを行い、内職的な規模(※実際、彼は高校卒業後、飲食店でウエイターをしていたという)で通販事業をスタートさせることとなる。

すると、持ち前の探究心&向上心の強さが奏功する形で、彼はネット上の麻薬ビジネスに関する情報を短期間で吸収すると、その“叡智”を元に、Amazonのノリで手軽に違法薬物や向精神薬などが手に入る通販サイト『シャイニー・フレーク』を完成させ、瞬く間に大ヒットさせる。しかしそれも長くは続かなかった。当初は遊び心から、“クマさんグミ”などのオマケをつけるなどの余裕を持ち、ビジネスを成長させることの喜び、顧客に喜ばれることで得られる充足感に酔っていた様子のマックスであったが、その後、商売が急速に成長すると、繁盛しすぎるあまり、商品の加工やパッケージング、配送といった業務に忙殺され、彼は心身ともに疲弊してしまう。そして、そんな矢先に起きたアンラッキーな出来事から、彼はついに御用となるわけだが、いかんせん、『シャイニー・フレーク』は、その最盛期に1日150件程度のオーダーがあり、1日最高10万ユーロを売り上げたという“巨大ビジネス”。前述の通り、逮捕時にはおよそ自宅の“こども部屋”から押収された薬物は1トン、最後まで貯えていたという資金も、総額で400万ユーロを超えたのだというから、なかなかの商才…いや、開いた口が塞がらない。

とかく、麻薬王と聞くと、前述のように“血なまぐさい手合い”を思い浮かべがちであるし、実際、そうした連中を題材とした映画やドキュメンタリーはこれまでもかなり制作されているが、そうした意味でいえば、この作品に登場するマックスはかなりのレアキャラだ。小難しいことはさておき、そんなレアキャラ麻薬王の人となりを観察するノリで観ては如何だろうか。

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