REVIEWS2024.12.17

“ジャスティス狂人”ジェイソン・ステイサム様による完全にブレーキが壊れた善行! ステイサム史上サイコーに怖い『ビーキーパー』

最初に断言するが『ビーキーパー』はジェイソン・ステイサムが新たなフェーズに突入した記念すべき作品。そしてステイサム史上サイコーに怖いステイサムを堪能できる作品だ。

ビーキーパー

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本作で彼が演じるのはビーキーパー(養蜂家)。口の周りに無精ヒゲをびっしりと生やし、カールおじさんのようになった彼はアメリカの片田舎で他人との関りを避け、大量の蜂を養育し美味しいハチミツを作りながら静かに暮らしている。このように『ビーキーパー』はステイサム史上最高に平穏なスローライフで幕開け。でも、素晴らしいことに、こんなまったりとした冒頭シーンでもステイサムの魅力――彼が全出演作でアピールする、ハズレの合コンに来てしまった男子のような怒りと哀愁が絶妙にブレンドされた表情。そしてイギリスのストリートで過ごしてきた少年時代からは育まれてきた、凄まなくても漂っている不良の品格が存分に堪能できること。

そうはいっても、ステイサム映画が哀愁漂う田舎暮らしで終わるわけはなく、映画開始数分後にステイサムを激怒させる事件が勃発! 世捨て人のように生きるステイサムが唯一心を許している、ステイサム宅の大家でもある優しいお婆さんが自殺してしまう。ネット詐欺に騙されて全財産をアッという間に奪われたショックで……

ハズレの合コンに来てしまった挙句、終電を逃してしてしまった男子のようにムッとした表情のステイサムは独自の情報網を駆使して、何故か警察よりも早く自殺の原因が、アメリカ全土の御老人たちから財産を騙しとる巨大ネット詐欺グループの仕業であることを突き止める。そして、詐欺グループに属す、お婆さんのお金を奪った支店ビルに単身、向かう。しかし、そこは銃器で武装したガードマンたちが警備する鉄壁の城……

実にリッチな造りの支店ビルの入り口前にボロボロになった愛車のピックアップトラック、1967年式フォードF-100を堂々と停めると荷台からガソリンタンクを出し、ビルに乗り込もうとする。が、案の定、グロック17で武装した2人のガードマンがやってきた。彼らはカールおじさんチックなひげ面に無地のキャップ&ヴィンテージ感、というか着古した感が出すぎているブラウンのトラディショナルコートというリッチな造りの支店ビルとは無縁すぎる姿のステイサムを「ここは私有地だから、すぐに出てくれ」とマニュアル通りの対応で追い返そうとする。しかし、ステイサムは不気味なほど冷静なトーンでこう言う。

「中に入って、焼き払う」

は? このおじさん、なに言ってるの……さっさと帰れよ! とガードマンたちが彼をナメた瞬間、ステイサムは驚異的な戦闘スキルで二ガードマンたちを戦闘不能状態にするだけでなく、彼らの愛銃グロック17も瞬時に解体! 

そのまま、支店ビルに入ると、絶賛ネット詐欺行為中のオフィスに突入。室内では何十人ものかけ子たちが御老人たちに詐欺電話をしている最中。誰もステイサムの侵入を気に留めていない。ステイサムはかけ子たちの前に立ち、冷静にこう言い放つ。

「お前ら、よく聞け。繰り返せ。もう二度と弱者から盗みません」

しかし、くたびれた服装のステイサムを見たかけ子たちは「なんか変なおじさんが来てるんですけど」程度にしか思っておらず、ステイサム魂の正論に対してヘラヘラしている……。すると、ステイサムは目の前で電話対応に忙しくしているかけ子から受話器を取り上げると、渾身の力でかけ子の顔面めがけて受話器を何度も何度も振り降ろす……。その光景を見て一瞬で蒼ざめるかけ子たち。そして再びステイサム先生がスピーチ!

「繰り返せ。もう二度と弱者から盗みません。家に帰るときだ」

オロオロと復唱するかけ子たちの声に納得したステイサムは、

「約束が守れるよう、ここを焼き払う」

と言うと持参したガソリンタンクの中身をオフィス内のパソコンにぶちまけ出す。この緊急事態に「チャラい」というワードをこれ以上ないくらい体現した支店長が4人のガードマンを引き連れて駆けつけた。

「何やってんだ!」

狼狽する支店長の問いにステイサムは表情を変えずにこう言い放つ。

「俺はビーキーパーだから群れを守る。スズメバチを燻りだす」

当然、憤慨した支店長の指示でガードマンたちがステイサムに襲いかかったた。しかし、彼はグロック17で武装したガードマンたちに対して、電話機やPC機器などの身の周りのアイテムを武器にしながら、「イコライザー」シリーズ(201423)のロバート・マッコールさん(デンゼル・ワシントン)とはひと味違う戦闘スタイルで瞬殺。そしてテキパキした動作でビルを爆破! もちろん建物内にいたガードマンたちは爆死……

ビーキーパー

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って、今回のステイサムは何者なんですか!? お答えしましょう。これまで数々の主演作で元特殊部隊というアクション映画的には実に誉な経歴のオーナーを演じてきたステイサムが今回演じるのは、現役の特殊部隊ソルジャーや傭兵たちが、

「息をしている限り武装しているのと同じ」

と恐れる地上最強の秘密組織ビーキーパーの元工作員……って、じゃあ、なんで地上最強の工作員がテロリストや凶悪犯罪者ではなくネット詐欺を成敗する荒唐無稽な映画を作ったの? とお思いの方もいますよね。これには実に深刻な理由があるので説明させてください!

実は本作の脚本家を担当したのは、アクション映画ファンにはガン=カタ映画『リベリオン』(2002)の監督・脚本として有名なカート・ウィマーなんですが、彼の叔母が詐欺被害に遭い、全財産を盗られ無一文のままこの世を去ってしまっている……

「この映画は僕の空想の世界なんだ。白馬の王子を必要としている人に、救いの手を差し伸べたかった」

という卑劣な輩に対する怒りからパンデミック中に本作の脚本を書き上げたカート・ウィマーにとって白馬の王子になるのは、地上最強の工作員を演じるにふさわしい存在感のオーナーでないといけない。そこで、彼は脚本を担当した『エクスペンダブルズ ニューブラッド』(2023)の主演で、親友でもあるステイサムに脚本を送った。

(脚本を)いったん読みはじめたら止まらなくなった」

と語るステイサムは『ビーキーパー』の映画化に賛同。さらに元アメリカ海軍で『トレーニング デイ』(2001)の脚本、『エンド・オブ・ウォッチ』(2012)、『フューリー』(2014)の監督・脚本などスリリングかつ骨太な映画作りに定評のあるデヴィッド・エアーも脚本を読むと、

「私は脚本をたくさん読んできたから、ページをめくる前から次に何が起こるか分かっている。でも、この作品は私の予想をはるかに超えていた。素晴らしい構成の物語だ!」

と絶賛し、

「俳優としてずっと尊敬してきたジェイソン・ステイサムと一緒に仕事ができるし、最高のアクションを見せる絶好のチャンスだ!」

と本作の監督に志願! 

かくしてガン=カタの生みの親カート・ウィマー脚本、元軍人というだけでなくロスでストリート反社とも関わった経験(後に更生)から裏打ちされたリアルで緊張感あふれるアクション映画を作るデヴィッド・エアー監督、そして僕の推定では現存するアクションスターの中でトップクラスに哀愁と不良の品格を醸し出せるだけでなく、類まれな身体能力のオーナーであるジェイソン・ステイサム主演、というこれ以上ないくらいゴージャスな布陣のアクション映画が誕生した!

話を戻すと、元ビーキーパー・ステイサムの目的はネット詐欺グループの支店ビル爆破では終わらない。

「俺はビーキーパーだから群れを守る。スズメバチを燻りだす」

と悪党たちに宣言したステイサムの最終目標は巨大ネット詐欺グループの壊滅。しかし、詐欺グループの元締めは、信じられないくらい実家が太い大物二世の超ボンボン(ジョシュ・ハッチャーソン)。限度を超えた甘ったれである超ボンボンは、親のコネで元CIA長官(ジェレミー・アイアンズ)を警備主任という名目で、自分の悪事をもみ消してもらうトラブルシューターにしている、という共感の余地が1ミリもない人物。つまり、ステイサムが倒し甲斐のあるキャラクター
巨大ネット詐欺グループ本社を突き止めたステイサムは、電話で詐欺グループの元締めに「次はお前だ」と警告する。しかし、これまでの人生、すべて金で解決できちゃった元締めは、「はぁ、なに言ってんの? こっちがやってやんよぉ~!」級のカジュアルすぎるゲーム感覚で、規格外なボンボンならではの財力とコネを最大限に使ってステイサムを処理しようとする
……。さらに秘密組織ビーキーパーの元工作員が暴走したことで、政府も極秘にステイサムを処理するため、現役ビーキーパーを出動させる! それでもステイサムは冷静さをキープしたまま、

「法律が役に立たない時は、俺の出番だ」

「野暮だが善を信じている」

などのシビれる名言を吐きながら、次々と襲いかかってくる敵を常人離れした戦闘スタイルで倒し、ネット詐欺グループの元締めを仕留めるためにただひたすら突き進む!

ビーキーパー

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このように『ビーキーパー』は、近所のお婆ちゃんが被害者の詐欺事件というステイサム映画史上最もスケールの小さい事件からスタートするが、やがて観客の予想を豪快かつイイ意味で裏切ってくれるアメリカ合衆国の存亡がかかった大惨事に発展し、これまで武装テロリスト集団や超巨大ザメなど人智を越えた敵と戦ってきたステイサムがステイサム映画史上最大スケールの敵と対決する! という1ミリも先が読めない素晴らしいアクション映画に仕上がっている。要はネット詐欺グループとボンボンが豪快にナメてたハチミツ屋さんが、実はゴリゴリの殺人マシンでした!という観たらスカっすること間違いなしなストレス解消効果絶大な映画なんです。

「ナメてた相手が、実は殺人マシンでした」ムービーといえば、気になるのが主人公の殺人マシンが披露する戦闘スタイル。これが、このジャンルの作品の大きな見所になるので当然、本作も腕によりをかけた戦闘スキルが披露される。そんな本作のファイト・コーディネーター(武術指導)とアクション・シーンを演出する第二班監督を担当したのは、「ジョン・ウィック」シリーズの監督チャド・スタエルスキと『デッドプール2』(2018)、『フォールガイ』(2024)などの監督で知られるデヴィッド・リーチが設立したアクション集団87イレブン・アクション・デザインのメンバー、ジェレミー・マリナス。彼は本作のファイト・シーンについてこう語っている。

「ステイサムは作品ごとにその戦闘スタイルを変える。今回は次の段階に移るためにどうやって目の前の敵を早く倒すか?という効率的な戦い方を見せるのが重要だった。だから、ターゲットを定め、その弱点を見せつけるという戦い方を選んだ」

監督のデヴィッド・エアーは本作の戦闘スタイルをこう語る。

「カート・ウィマーが書いた脚本に、すでにビーキーパーの戦闘スタイルが書いてあるんだよ。ビーキーパーは銃を使うこともあるが、彼にとっては一時的な武器でしかない。それよりも彼の戦闘スタイルは常に環境を利用している。身の回りにある何が武器になるのかを瞬時に把握して使用することに重点を置いている。そんなファイト・シーンをジェレミー・マリナスは見事に作ってくれたよ(笑)

その結果、劇中でのステイサムは銃を極力使用せず(それでいて使う時はカッコよく撃つ!)、PC機器、電話、ホッチキス、椅子など身の回りにあるアイテムを瞬時に武器にするエスプリの効いた戦闘スタイルを披露! しかも、その戦闘シーンを「ステイサムに折られた敵の前歯が画面に向かって飛んでくる」、「すぱっと指を切断するだけでなく切断面も観客にちゃんとアピールする」、「ショットガンの銃口を喉笛に突き刺す」、「ネット詐欺で調子こいている輩の顔面に大量のホッチキスを打ち込む」という真心のこもった残酷描写が援護射撃!本作関係者は実にイイ仕事をしてくれます!

でも、その結果、どんな障害が立ちはだかっても1ミリもためらうことなく悪党殲滅に突き進んでいくステイサムの姿は正義の味方というよりも最早、狂人に見えてしまうトラブルが発生……しますが、だからこそ本作は素晴らしい! これまでの作品でも無双ぶりをスパークさせてきたステイサムだが、本作で遂に『コマンドー』(1985)のジョン・メイトリックス(アーノルド・シュワルツェネッガー)、『96時間』(2008)のブライアン・ミルズ(リーアム・ニーソン)、「イコライザー」シリーズの主人公ロバート・マッコールさんと同じジャスティス狂人様の域に到達したんです! 

ジャスティス狂人様とは簡単に言えば、主人公の許せぬ悪党はどんな手段を使っても必ずサーチ&デストロイする姿勢があまりにブレなすぎるあまり、主人公を応援するために映画を観ていた我々が、いつしか悪役の心配をしだしてしまう効果があるヒーローのこと。ジャスティス狂人様という新たなフェーズに到達したステイサムの今後が気になりますが、なんと!次回作の監督も本作のデヴィット・エアー!
さらに脚本はステイサム以前から哀愁漂うアクション映画ヒーローを演じ続け、名脚本家でもある先輩シルヴェスター・スタローン脚本による『
Levon’s Trade』がすでに撮影済み。本作でステイサムが演じるのは元秘密工作で現在は一人娘と暮らす建設作業員。少女の失踪事件に巻き込まれた彼が秘密工作員時代に培った戦闘スキルを駆使することになる……って、また「ナメてた相手が、実は殺人マシン」ムービーかよ! とツッコむ方もいると思うが、僕的には是非やり続けてくて欲しい! そして『ビーキーパー』で開拓したジャスティス狂人様としての魅力をデヴィッド・エアー演出&アクション映画に絶妙なペーソスをスパイスできるスタローン脚本の力でさらにスパークさせてください!と応援せずにはいられない。

その前にまず2025年の初映画には『ビーキーパー』をチョイスして、遂に新たにフェーズに突入したジャスティス狂人ジェイソン・ステイサム様による完全にブレーキが壊れた善行をスクリーンで観戦して、今後のステイサムの戦いを応援しようじゃないですか!

文・ギンティ小林

 

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