REVIEWS2025.01.05

悪徳警官がカラんだのは空気を読まない“近接戦闘の達人”だった 金も希望もないド田舎の小さな町と腐敗した警察組織を壊滅 『レベル・リッジ』

Netflixで配信中の『レベル・リッジ』は、ひょんなことから片田舎の小さな町を訪れることとなった退役軍人のテリー・リッチモンドが、“黒いローカルルール”に巻き込まれたことがキッカケで、腐敗しきった町ならではの不文律を知り、復讐しつつ悪党一味を成敗する。主人公のリッチモンドは、難癖に等しい軽微な罪状で現地警察によって逮捕され、不可解な長期拘留となっている従兄弟のマイクの保釈金を持って町を訪れようとしていただけなのに、獲物を探して巡回中のパトカーに追突された挙げ句、民事没収という名目で保釈金を巻き上げられるという理不尽な目に遭う。

そもそもの出発点は、このときに巻き上げられた保釈金を取り返そうとリッチモンドが警察署を訪れたことで、そこで彼は警察署長のサンディ・バーンら、署員たちの応対で、この町の警察の“おかしさ”を察してしまうことなのだが、このあたりから、テリーがただの退役軍人などではなく、近接戦闘の達人として知られた元海兵隊員で、兵士たちにMarine Corps Martial Arts Program(海兵隊マーシャル・アーツ・プログラム)を教えていたエキスパートであることが判明するという、グッとくる要素が盛り込まれる。

さて、キッカケこそ理不尽な形であったものの、その理不尽な出来事によって従兄弟のマイクが死ぬという憂き目に遭ったテリーは、町ぐるみの不正に気づいてしまったサマーと合流し、ここから復讐の鬼と化していく。彼は終始、清く正しい正義感的な振る舞いを見せ、「悪」であるバーン署長らに制裁を加えていくこととなるのだが、その復讐が成功を遂げた後で、シンプルな勧善懲悪的“スカっと感”があるかというと実に微妙なのだ。というのも、そもそも署長が判事まで、でっちあげに等しい事件で不正に金を没収しまくっていたのは、既に町の財政が破綻し、警察にもまともな予算が割り当てられず、治安の維持が難しい状況となっていたのが原因であることが明らかになるからだ。つまり、不正であることを百も承知しながら、白人至上主義も加わり“臭い”と思う連中などから金を巻き上げては、その金で装備を調達し、警察官たちに給料を支払い、警察機能を維持していたというわけである。劇中の会話で、腐敗を担っていた警察官たちにも妻子がいることが示唆されているが、そうした意味でいうと、彼ら警察官たちはその家族を含め、一連の腐敗行為によって得た闇資金で命を永らえていたというわけだ。

さて、話の終盤では、テリーによる復讐が成功し、署長らはお縄になったのだが、テリー&サマーは良いとしても、彼らがこの町を去った後に、果たしてこの町はどうなってしまうのだろう?と、気になる点もある。なぜなら、そもそも財政が破綻し、警察機能の維持が困難であるという事実は変わらないからだ。私服を肥やすだけの悪代官を成敗するのとはわけが違うのである。テリーは、“レベル・リッジ”という大義名分の下で私怨を晴らしたのだが、警察官たちから職を奪い、町から警察機能を奪った。代官の首を取ったところが、この金も希望も何もない小さな田舎町に、平和は訪れるのかは定かではないのだ。

『レベル・リッジ』はNetflixで配信中

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