REVIEWS丨2025.04.10
一瞬の感情がすべてを狂わせる… 過剰な暴力と血に塗れたイ・ビョンホンの“美しい復讐劇” 韓国バイオレンスノワールの傑作『甘い人生』

(c)2005 CJ ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHT RESERVED.
2005年に公開されたキム・ジウン監督の『甘い人生』は、バイオレンスノワールの傑作として今も語り継がれている。主演のイ・ビョンホンは裏社会でも成功を収めていた高級ホテルのマネージャー・ソヌを演じる。ボスの若い愛人に情を抱いたことで破滅へと向かう物語だ。
冷静で無駄のない動きをするソヌは、ホテルのオーナーであり裏社会の顔も持つ男の部下として、忠実に働いている。時に用心棒、時に殺し屋、時に雑用係と、その任務は多岐に渡るが、確かな腕を持つ。ある日、重要な仕事も任されることになる。任務の内容は、ボスの若い恋人ヒス(シン・ミナ)を尾行し、浮気をしていた場合は「始末する」。やがてソヌは、ヒスが本当に浮気している現場を目撃する。けれど、彼女の存在がソヌの心に微かな変化をもたらしてしまう。これまで冷たい世界で生きてきた彼にとって、ヒスの静かな美しさや優しさは、現実の中にある小さな光のようだった。その一瞬の感情が、すべてを狂わせる。ソヌは彼女を見逃し、結果的にボスに背くことになる。そこから物語は一気に転がり始める。ライバル組織との対立、身内の裏切り、命を狙われる日々。ソヌは命を落としかけながらも生き延び、やがて自らの手で復讐の道を選ぶ。
裏社会の伝説的な男が裏切られ、すべてを投げ打って復讐に向かうイ・ビョンホンの演技は圧巻。無表情の奥にある葛藤や怒り、迷いが少しずつ浮かび上がり、最後には感情の爆発へと至る。その変化がとても自然で説得力がある。戦闘シーンの構成やカメラワークの美しさが際立ち、過剰な暴力描写すらもひとつの様式美として機能している。撮影のリアリティを追求するために俳優たちが過酷な状況に置かれたことも興味深い。イ・ビョンホンは保護具なしで殴られ、終盤のカーチェイスでは、スタントなしで実際に壁を突き破るなど、危険な撮影も行われたという。
一方で、わずかなユーモアや静かな癒しのシーンも散りばめられている。無骨なだけではなく、どこか詩的で、余韻が残るような美しさがある。劇中で重要なモチーフとなる「風」にも注目だ。映画冒頭、風に揺れる木々のカットが挿入されるが、これはソヌの冷徹な心が揺らぎ、変化していくことを視覚的に表現するためのもの。特に、ヒスと接する場面では風が効果的に使われており、感情の動きを象徴している。
『甘い人生』は、単なるアクションノワールにとどまらず、視覚的にも美しく、洗練された演出によって、哲学的なテーマを持つ作品に仕上がっている。復讐というテーマの裏にある、孤独や希望、ほんの少しの救いのようなものが、じわじわと沁みてくる。

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