STREAMING2024.12.26

人生に絶望した“ザ・ノンフィクションなおっさん”が、大スランプに陥った人気メジャーリーガーを復活させる 奇跡の実話『ターナーアラウンド: ファンと共にあれ』

毎年この時期となると、日本でもアメリカでも、プロ野球の戦力補強に関する話題がスポーツメディアを賑せるが、たとえ巨額の獲得資金が動いたとしても、いざシーズンが始まって見るとからっきしダメで、即座に不良債権呼ばわりされる選手が、毎年、一定数いることも事実。実際にはそうした“負”の部分を含めてプロ野球の面白さがあるのだが、なかにはそれを許容できないタイプの人もいる。

Netflixで配信されている『ターナーアラウンド: ファンと共にあれ』は、2023年に“11年総額3億ドル”という超大型契約で、MLB・ロサンゼルス・ドジャースからフィラデルフィア・フィリーズへと移籍した人気選手トレイ・ターナーをめぐる、あるファン男性の奮闘を描いている。

実はこの年のターナーは、気合十分で新天地での開幕を迎えたものの、のっけから調子を狂わせたまま、それこそ何のために大型契約で移籍してきたのかわらぬという、不甲斐ないシーズンとなっていたのだ。こうしたターナーに、“容赦ない”ことで知られるフィリーズのファンたちは酷く落胆し、血の気の多いファンは、スタジアムの内外でターナーに対する罵詈雑言をぶちまけることとなったのである。不振に加え、これがターナーにとって大きなストレスとなっていたことは想像に難くなく、復調の兆しさえないままに、日を追うごとに打順を下げることとなった。

しかし、そんなターナーとフィリーズの状況を見るに見かねて立ち上がった一人の男がいた。生まれながらの熱狂的な地元っ子のフィリーズファン、ジョン・マッキャンだ。「ターナーに必要なのは愛」だと考えたマッキャンは、主にネットを使って、ターナーへのアツい声援を送るよう、ファン仲間たちに訴えはじめたのである。マッキャン自身、別に“特別なファン”でもフィリーズやターナーの関係者でもない。それこそ“ただのおっさん”なのだ。その“おっさん”が、ネット上で堂々と顔出しをした上で、いにしえの宣教師よろしく、ファンに「慈愛」を説き続けたのである。するとどうだろう、マッキャンの呼びかけに1人、また1人と賛同するファンが現れ、やがては「ターナーが打席に立つとスタンディングオベーション」という、信じ難い状況を生み出すことに。すると、どういうわけか、当のターナーも奮起。本来の調子を取り戻すと、徐々にプレー中に笑みを見せる場面や、ファンへの感謝を示す姿も見られるようになるなど、かなりの“回復”ぶりを見せるまでになったのである。

たった1人のおっさんが、一念発起して行動を起こしたことにより、生み出された奇跡は、まさに感動のアンビリーバボーそのもの。繰り返し言うが、前述したように、マッキャンは“ただのおっさん”なのだ。しかも、日頃はその複雑な家庭環境ゆえに貧しい暮らしをしており、電動スクーターや韓国製のオンボロ車を乗り回して悪態をつきながら、精神科のカウンセリングに通っているという、割と“ザ・ノンフィクションなおっさん”なのである。つまり、フィリーズの応援という部分を抜けば、人の応援どころではない人生を送っているし、傍目に見れば「いやいや、それよりも先にいろいろとやることあるだろ!」というツッコミが思わず頭をよぎってしまう人なのだ。にもかかわらず、彼が多くの人々の心を動かし、さらにはターナー自身も、そしてチームの躍進をも生み出すことになったのは、やはり彼があまりに純粋すぎる“フィリーズ愛”の持ち主であったからからなのだろう。金持ちも貧乏人も、個々人の抱える様々な事情も関係なく、みんなが一丸となって、一つの目標に向って突き進む…この作品は、中年のおっさんばかりが出ているのに、不思議とそんな“ド青春なピュア感”が持つ魅力を改めて感じさせてくれる作品といえそうだ。

『ターナーアラウンド: ファンと共にあれ』はNetflixにて独占配信中

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