REVIEWS丨2025.04.09
SNSのデータが盗まれ莫大な金を生む… 選挙戦さえ左右する“世論操作会社”の闇に迫る『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』
Netflixドキュメンタリー『グレート・ハック SNS史上最悪のスキャンダル』は、2016年に行われた米・大統領選挙の際に明るみに出ることとなったSNS業界の闇に迫る内容となっているが、この作品で特筆すべきは、一般人の何気ないSNSへの投稿から、情報を業者が勝手に抜き出してそれを徹底的に分析し、世論操作まで可能としてしまうという“データ業界の闇”が浮き彫りになったことであろう。
この作品に登場する“悪の枢軸”ともいうべき業者は、データ分析企業大手のケンブリッジ・アナリティカ社(※以下、CA社)。とはいえ、一般ユーザーにとって“悪”といえるのは彼らだけではなく、それこそありとあらゆるネット関連企業が、“悪”なのだ。というのも、ユーザデータの分析やそれを悪用した世論操作を行っていたのは、たしかにCA同社であったものの、その元となるデータを提供していたのは別の企業。当局側もとりわけ“悪質”だと判定し、実際にこのドキュメンタリーの中で槍玉に挙げられているのは、日本でも利用者が多く、実名での利用が目立つFacebookだった。
Facebookには、一般ユーザーの手により、日々、プロフィールやそれに紐付けられた交友関係、さらには日々の様々な事象などを綴った日記的投稿が“データ”としてもたらされるが、実はこれらを抽出しながら整理し、ある程度、機械的に選り分けていくと、たとえば米国人であれば、“いくつかの典型的な米国人のパーソナリティ像”のようなものが出来上がるのだという。すると、今度はそれを元に、彼らの行動パターン・思考の傾向などに合わせた“世論操作方法”をまとめあげ、ビジネスや政治などの様々な場面で活用するというわけだ。実際彼らは2016年の大統領選でトランプ大統領の誕生に多く貢献したのだというが、これは一例に過ぎず、実際には世界各国で、こうした世論操作に加担していたのだというから、それが仮に本当だとするならば、我々はネット上にデータを自ら「投稿」という形で“流出”させることで、勝手に“分析”されて丸裸にされた挙げ句に、“洗脳”されることになる。つまり、ネット上の「投稿」は、悪意の第三者による“洗脳”を受け入れる準備を自ら行っているようなものだということなのである。
実際、CAによる分析と操作がどの程度の確度で成功するのかは定かではないが、そもそも、こうした“悪の業者”の活動の性質が悪いところは、多くの利用者にとって意図しない形で、投稿データの悪用が行われているという点だ。これは世論操作の成果がどうのこうのという以前の問題で、ユーザは知らない間にデータを“抜かれ”た上に、勝手な分析まで行われているのである。犯罪者の多くは、こうした行為を様々な形で行っているのだが、(※「少なくとも表向きは」程度の)まともなネット企業までもが、特殊詐欺グループと変わらぬレベルの悪行に手を染めているというのは驚くべきこと。作品の中では、当局から“呼び出し”を食らったFacebookの創始者マーク・ザッカーバーグ(Meta社最高経営責任者)が、なんとも歯切れの悪い答弁を繰り返す様子が随所で紹介されているが、たしかに、一国の大統領選の結果さえ左右する可能性が高いCA社の“悪のデータビジネス”に、“材料”を提供していたとなれば大問題。その苦しい答弁の様子もさもありなんといったところだ。もしかすると我々は、知らず知らずのうちに、まったく顔を見たことさえ知らぬ誰かに利益を与える行動をしてしまっているのかもしれない。
なお、前述の米大統領選を巡っては、今回紹介したCA社の事例のほかに、ネット上のアングラ活動集団・アノニマスのメンバーらによる扇動も当時、大変な話題となった。こちらについては同じくNetflixで配信されている『アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界』の方で紹介されているので、ご覧頂ければと思う。