REVIEWS2025.04.06

裏社会に美談など存在しない “やくざ者たち”の救いようもない人間模様を淡々と描くリアリティ Netflix『ボゴタ: 彷徨いの地』

ボゴタ 彷徨いの地

Netflix映画「ボゴタ 彷徨いの地」

祖国から遠く離れたコロンビアの密輸市場で、韓国人移民の青年が成り上がる姿を描くNetflix映画『ボゴタ: 彷徨いの地』。

舞台は1997年。ソン・ジュンギ演じる青年・クッキが、両親とともにコロンビアのボゴタに渡り、手痛い洗礼を浴びつつも、現地の密輸市場で韓国人移民たちを束ねているパク兵長の下で働きはじめるというところから始まる。

密輸稼業を行うのは、移民であるがゆえにほかならない。彼らは何の後ろ盾もなく、身一つで海を渡り、異国で身を立てる方策を模索した結果、非合法な商売ぐらいしか活路が見出せなかったのだ。彼らはそこで懸命に働き、巨万の富を築くまでになった、“闇市長者”的なグループである。根っからのプロ犯罪者はそこまでおらず、普通の人々が異国で生き、人並みの暮らしを手に入れるために、やむを得ず犯罪に手を染めている。

そんな韓国移民たちの密輸組織の中で、主人公クッキは、持ち前の生真面目な性格と熱心な仕事ぶりから、パク兵長に気に入られ、トントン拍子に出世していく。やっていることは非合法な行為でしかないのだが、そこは真っ直ぐな気持ちを持った好青年。どんなことであっても頑張ってしまうのだ。まっすぐな気持ちと生真面目さで仕事に取り組み、その結果、上の者に評価され、出世していく… しかし、そんな彼も、出世していくうちに見える景色が変わってくる。なぜなら、裏稼業であるが故にそこに集う人々は打算的・野心的であり、結果として組織そのものが、美談とは無縁の「非情な裏切りありき」であることを思い知らされるようになるからだ。

イ・ヒジュン演じる“闇堕ち元エリート”系のスヨンは、現地での裏工作が得意で、パク兵長の密輸ビジネスにとっては欠かせない人物であった。それゆえに、表面上はあたかもパク兵長とファミリーのような関係を築いているかのように見えるものの、実際、お互いに腹の中では、それぞれの“野心”が仇となる形で信頼しておらず、どちらかがいつ裏切りのカードを出すかどうかもわからないような、いわば打算による共闘関係にすぎなかったのだ。とはいえスヨンは、打倒パク兵長の想いがある一方で、兄貴肌で、クッキら若手を可愛がっているのだが…。組織の中枢からしてこの有り様であるから、当然、コミュニティ全体としても、また、彼らとビジネス面でタッグを組んでいる現地民たちも、あくまで表面上の関係。実際にはお互いに利用する、1秒たりとも気の抜けない世界。成功と死が絶えず隣り合わせにある世界なのである。

組織人として悪事に手を染めながらも、“らしさ”を持っていたクッキであったが、実父が命を落とし、兄貴分として慕っていたスヨンさえ、自分を超える出世をしたことを快く思っていないことを悟ると、クッキは自己実現と自己防衛のために、パク兵長らと同様に「ボゴタのローカルルール」を当たり前のものとして受け入れる人間へと変わっていく。“おじき”であるパク兵長の判断でスヨンを消した時点で、パク兵長の皮算用を読んでいたクッキは、パク兵長が手引きしたことで現れたヒットマンをアッサリと返り討ちににし、パク兵長も瞬殺。自ら“裏切り戦争”の覇者となることで、めでたくボスの座を手に入れることとなる。そこにはもう、かつての朴訥とした青年の姿はなかった。

この裏社会には義理や人情、絆などは美談であり単なる絵空事でしかないことであることは言うに及ばず。クライマックスに向けて大きな盛り上がりはないが救いようのない人間模様を淡々と描き、逆にリアリティさを感じさせる。死が絶えず隣り合わせにある、やくざ者たちの救いようもない裏社会に生温い話などは存在しないのだ。

映画『ボゴタ: 彷徨いの地』はNetflixで配信中

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