STREAMING丨2026.08.14
「こんな選手、もう二度と現れない」 酒、ケンカ、トラブル… 工場勤務からプレミア王者へ 常識をぶち壊したジェイミー・ヴァーディという“異常”

Netflix
Netflixのドキュメンタリー作品『Untold UK: ジェイミー・ヴァーディという生き方』は、サッカー界のレジェンドとしての地位を築いたジェイミー・ヴァーディの、プロサッカー界とは無縁だった頃から、イングランド代表とレスター・シティでサッカー界の頂点に立つまでの道のりを追っている。
工場で働きながらノンリーグでプレーしていた青年が、レスター・シティのエースとなり、5000倍ともいわれた下馬評を覆してプレミアリーグを制覇する。今ではあまりにも有名になったサクセスストーリーだが、本作が映し出すヴァーディの人生は、単純な「夢を諦めなかった男」の物語ではない。
若くしてプロクラブの育成組織から外れ、工場で働きながら下部リーグでプレー。酒を飲み、パーティーに明け暮れ、トラブルも起こす。才能はありながら、自分自身でキャリアを壊しかねない危うさを抱えた青年だった。
そんなヴァーディが、イングランドサッカーの階段を猛烈な勢いで駆け上がっていく。ストックスブリッジ・パーク・スティールズからハリファックス、フリートウッド・タウンを経て、2012年にレスターへ加入。当時25歳。現在のサッカー界では、トップレベルを目指す選手としては異例ともいえる遅さだった。
しかも、レスター加入直後から順風満帆だったわけではない。プロの世界への急激な環境変化に苦しみ、一時はノンリーグへ戻ることさえ考えた。それでも周囲に支えられながら踏みとどまり、やがてプレミアリーグを代表するストライカーへと変貌していく。
最下層に近いカテゴリーからプレミアリーグまで、ヴァーディがどれほど異常な距離を駆け上がったのかが伝わってくる。
そして何より面白いのが、本人だ。
ヴァーディは自分の人生を格好よく語ろうとしない。カメラの前でも短い言葉と悪態、自虐を交えながら過去を振り返る。自分の偉業を大げさに語ることもなければ、「努力すれば夢は叶う」といった成功者らしい言葉にまとめようともしない。
プレミアリーグ優勝という歴史的偉業さえ、どこか他人事のように振り返る。その飾らない姿が、この作品に一般的なスター選手のドキュメンタリーとは違う空気を与えている。
ヴァーディは決して完璧な主人公ではない。過度の飲酒や荒れた生活、感情をコントロールできなかった過去、2015年にカジノで人種差別的な言葉を使った問題など、自身のキャリアには消すことのできない過ちもある。
本作はそれを英雄物語の陰に隠すのではなく、ヴァーディという人間を形作った過去として扱っていく。
昔からの友人や元チームメートも登場し、ピッチ上のストライカーではなく「ジェイミー・ヴァーディという人間」を語る。欠点も才能も知る人々の証言が重なることで、成功だけでは説明できない人物像が浮かび上がってくる。
そのなかでも大きな存在として描かれるのが妻レベッカだ。荒れた生活を続けていたヴァーディに変化をもたらし、プロとしてのキャリアを支えた存在だった。本人も、自身の成功に妻の存在が大きかったことを認めている。
そして物語は、レスター・シティの2015-16シーズンへ向かう。
前年まで残留を争っていたチームが、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティ、チェルシー、アーセナル、リバプールといった巨大クラブを押しのけてプレミアリーグの頂点に立つ。
ヴァーディは24得点を記録し、11試合連続ゴールという当時のプレミアリーグ新記録を樹立した。
ノンリーグから這い上がってきたストライカーと、優勝候補ですらなかったレスター。サッカー界を代表する2つのアンダードッグストーリーが重なったことで、あのシーズンはスポーツ史に残る奇跡になった。
ただ、本作を見ていると、それを「奇跡」という一言だけで片付けることはできない。
ヴァーディは速かった。ゴールを奪えた。DFの背後を狙い続け、相手が嫌がることを90分間繰り返した。挑発もする。喧嘩腰にもなる。そして何より、最後まで走ることをやめなかった。
ピッチ上でもピッチ外でも、いわゆるエリート選手の型には収まらない。
だからこそ面白い。
プレミアリーグ優勝、FAカップ制覇、チャンピオンズリーグ出場、イングランド代表26試合、レスターでは通算500試合200得点。
ノンリーグでプレーしていた青年が残したキャリアとは思えない数字が並ぶ。
それでも本人は、自分自身を特別な成功者として語ろうとはしない。
現在39歳のヴァーディは、自身と同じようなキャリアを歩む選手が今後現れる可能性について、自らを「フリーク(異常な存在)」と表現している。実際、若年化とデータ分析が進み、才能ある選手が早い段階で発掘される現代サッカーで、20代半ばまでノンリーグにいた選手がプレミアリーグ得点王クラスまで到達するケースは極めて珍しい。
『Untold UK: ジェイミー・ヴァーディという生き方』が映しているのは、完璧なスター選手ではない。
酒を飲み、失敗し、問題を起こし、プロになるのも遅かった。それでも自分の武器だけは失わず、イングランドサッカーの階段をほぼ最下層から頂点まで駆け上がった。
プレミアリーグ史には数え切れないほどの名ストライカーがいる。だが、ジェイミー・ヴァーディと同じ道を通ってそこへたどり着いた選手はいない。
工場勤務のノンリーガーから、プレミアリーグ王者へ。
5000倍の奇跡を起こしたレスターの物語と同じように、ジェイミー・ヴァーディという選手そのものが、現代サッカーではほとんど再現不可能な存在だったことを改めて浮かび上がらせる一本となっている。









