REVIEWS2025.11.28

首にナイフを突き刺すのは「最も確実な殺傷方法」 残酷なリアルアクションで“ほぼ全編殺し合い”… 常軌を逸した殺人大会ムービー『KILL 超覚醒』武術監督・オ・セヨン 独占取材

KILL 超覚醒

© 2024 BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD. & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD.

列車内でのバトルを描いた映画といえばスティーブン・セガール主演の列車版「ダイ・ハード」な『暴走特急』(1995)、木内一裕の小説を映画化した『藁の楯』(2013)。韓国ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)、ポン・ジュノ監督のSF映画『スノーピアサー』(2013)、伊坂幸太郎の小説を映画化した『ブレット・トレイン』(2022)、クライマックスに地下鉄内でドニー・イェンが殺し屋たちを相手に、ポールや吊革を駆使して戦う立体的かつ高度な格闘シーンを披露する『プロセキューター』(2024)、SFアニメではあるが銀河鉄道内でのバトルを描いた『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』(2025)などがある。

個人的に印象深い列車バトル映画は、名古屋ロケをしたハリウッドのニンジャ映画『ハンテッド』(1995)。劇中、東海道新幹線内で夏木マリ演じるくノ一率いる忍者軍団が乗客をサーチ&デストロイ。そこに原田芳雄演じる剣術使いが、スーツ姿に日本刀で迎え討ち、血まみれソードバトルを展開する。

そして今、究極の列車バトル映画が誕生した。現在公開中のインド映画『KILL 超覚醒』(2024)である。ラーンチー発ニューデリー行きの特急寝台列車を舞台に、総勢40人の武装強盗軍団VS偶然、乗り合わせたNGS 対テロ部隊の兵士アムリト(ラクシャ)の戦いのみを描く、という実にソリッドな作品。ほぼ全編にわたり列車内でのバトルが描かれるうえに、主人公と強盗団は銃を使わず、ナイフや手斧、そして特殊部隊仕込みの近接戦闘スキルを武器に真心のこもった残酷描写満載の殺し合いを繰り広げる。

これまでのインド映画の格闘アクションといえば「バーフバリ」シリーズ(2015~17)や『RRR』(2022)に代表されるように、ワイヤーワークを多用したファンタジックなものが主流だ。しかし、本作の監督ニキル・ナゲシュ・バートは、『KILL』にはリアルで残酷なアクションを導入しようとした。そのために彼は、韓国映画界で活躍する武術監督(アクション監督)オ・セヨンに本作のアクション監督を依頼した。

オ・セヨンは『アベンジャーズ710+/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)の韓国ロケのアクション監督を担当し、韓国映画史上初の弓アクション映画『神弓-KAMIYUMI-』(11)のアクション監督で、韓国で最も権威のある映画賞である青龍映画賞で技術賞を受賞した実力者。彼がアクション監督を務めた主な韓国映画は『スノーピアサー』(2013)、『ポイントブランク 標的にされた男』(2014)、『サスペクト 哀しき容疑者』(2013)、『コンフィデンシャル/共助』(2016)ではシステマ。『楽園の夜』(2021)など。
オ・セヨンは数年前からインド映画のアクション監督パルヴェーズ・シャイフにとコンビを組んでインド映画でも活躍し、『ガネーシャ マスター・オブ・ジャングル』(2019)、『WAR ウォー!!』(2020)、『タイガー 裏切りのスパイ』(2023)、『Fighter』(2024年)、そして来年日本公開するリティク・ローシャン&N・T・ラーマ・ラオ・ジュニアシ主演作『WAR/バトル・オブ・フェイト』(2025)、などのインド映画でアクション監督をしている。そして『KILL』でもオ・セヨンはパルヴェーズ・シャイフとコンビを組んでアクション監督を務めている。そんなオ・セヨンに『KILL』のアクションについて取材する機会に恵まれた。

KILL 超覚醒

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列車バトル映画史上初といっても過言ではない、ほぼ全編にわたり列車内での殺し合いが展開される本作の脚本をはじめて読んだ時、オ・セヨンは驚愕したという。

「シナリオを読んだら、あまりのアクションの多さに驚きました。準備時間と撮影時間が足りなくなるのでは…? ほとんどのアクションを俳優自身がこなさなければならないのに、短期間でトレーニングが可能なのか……? などの心配が先立ちました」

不安を感じたオ・セヨンだが、幸いなことに主人公であるNGS 対テロ部隊の兵士アムリトを演じるラクシャは類まれな運動神経のオーナーだった。ハードな条件でのアクション監督となったオだが、彼はかつて『スノーピアサー』でも列車バトルをアクション監督した経験を本作に活かすようなことはしなかったという。

「私のアクションデザインは、自分が好むアクションに陥らないよう注意しながら、できるだけ過去の作品で使用したコンセプトを繰り返さないよう努めています。観客の方々が気づかなくても、そうしようと努力しています」

もっともインドの寝台列車は世界の中でもトップクラスに車内空間が狭い。そんなバトルステージでの戦いをクリエイトするのは、彼にとってだけでなく、アクション映画史上的にも初の試みであった。そんなアクションのデザインをどのようにして作りあげていったのだろう?

「アクションのデザインを考えるときは、アクションを考えることからはじめるのではなく、まずはキャラクターとキャラクターが持つ物語を考えます。そして監督からストーリーの説明を聞き、質問し、その映画の世界観を理解した後にデザインをはじめます」

KILL 超覚醒

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そう語るオ・セヨンは、恋人を強盗団に奪われた主人公アムリトの壮絶な復讐劇である本作には、実際に相手に攻撃を当てるリアル・ヒッティングを導入した。

「残酷で、非常にリアルなアクションをしてほしいという依頼を受けましたので、私はそれを安全でよりリアルになるように努めました」

残酷でリアルなアクションといえば劇中、復讐の殺人マシンに覚醒したアムリトが大勢の敵と対峙した際、一人目の敵の首に問答無用でナイフを突き刺すパターンが多い。

「彼は現役コマンドーですから、インドの寝台車は狭い場所なので、多くの強盗と対峙する接近戦では最も確実な殺傷方法だからです。でも、本作のアクション・シーンは違う方法で殺すシーンも非常に多いですよね(笑)」

KILL 超覚醒

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そう語るように本作は、様々なパターンのハードコアな死に様を堪能できる映画になっている。列車に乗り合わせてしまった主人公アムリトは銃を所持していない。そのため、強盗団を返り討ちにする際、敵から奪ったナイフだけでなく、消火器、シーツ、ドア、割れた鏡、さらには列車内の乗客の荷物(ジッポーライター、オイル等)などの身の回りにあるアイテム、そして空間環境を武器にする。これらのアクションはニキル・ナゲシュ・バート監督が、脚本の時点で「誰がどんなアイテムで、どんな殺され方をするのか」詳細に書かれていたという。

「重要な場面や重要なアクションなどは、動作が非常に詳細にシナリオに書かれていました。監督がこの映画にどれほど情熱と愛情を注いでいるかが、よくわかりました。監督の頭の中には、どの俳優がどの武器を使うかという考えが整理されており、私と私のチームがそれを把握しなければならないのが大変でした」

つまり劇中、アムリトが消火器のホースを相手の口に突っ込んで噴射する、ジッポーオイルを相手の口に注ぎ込んで火だるま刑に処す、対峙する敵の前で、捕獲した敵の胸部を滅多刺しにする等の情け無用の殺人マシンぶりをアピールする。殺した強盗団のメンバーの死体を車内に吊るして、敵を動揺させる等のメモリアルな殺戮スタイルはすべて脚本の時点で決定していた。

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アムリトに殺される強盗団一 人々の死に様が不気味なほど詳しく書かれた脚本をもとにアクションを組み立てる作業に苦労はあったのだろうか?

「監督が記した動作のポイントを基にアクションをデザインしましたが、想像で書かれたアクションを実際に俳優たちにやってもらうと、不自然な瞬間ができてしまう。そこを監督と相談しながら、修正を重ねてアクション・シーンを作りあげました。本作のアクションが他の映画と違っていたなら、監督の考えがよく反映されたのだと思います」

本作は「ジョン・ウィック」シリーズ(2014~)のうち4作を監督したチャド・スタエルスキのプロデュースでハリウッド・リメイクが決定している。そして本作自体も「続編を作って欲しい!」という熱い声が寄せられている。もしも続編が作られたらオ・セヨンはどのようなアクションを作り出すのだろう。そんな疑問にオはこう語った。

「さっきも言ったように、私はできるだけ過去の作品で使用したコンセプトを繰り返さないよう努めています。もしも『KILL2』のアクション監督の依頼が来て、主人公が前作とは違う職業で、別のストーリーを持つ人物であるならば、前作のアクションに全く影響されず、新しいデザインのアクションを作るつもりです!」

前作とは違う人物が主人公? 自分は、続編の主人公もアムリトのつもりで質問したが、予想外の発言が返ってきた……ということは、つまり! すでに水面下で、新しいキャラクターを主人公にした『KILL』続編の準備が進行しているのでは!? 

だとしたらニキル監督とオ・セヨンたちが新たに作る常軌を逸した殺人大会ムービーが一日も早く鑑賞できることを期待したい!  

文・ギンティ小林

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