MOVIE2025.02.02

MMAでカンフーの達人をぶっ潰す感じ。カンフーの構えをしている人をジャーマンスープレックスで脳天から落としたり(笑) 『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』谷垣健治インタビュー〈前編〉 (聞き手:ギンティ小林)

香港映画のアクションの変遷は、世界中のアクション映画に多大な影響を与えてきた。いや、アクション映画全体の流れを変えてきた、と言っても過言ではない。その証拠に1970年代は『燃えよドラゴン』(1973)などのブルース・リー主演作によって地球レベルのカンフー映画ブームが勃発。1980年代にジャッキー・チェン、サモ・ハンたちが開拓したトリッキーで危険なスタント満載の格闘アクションは、今も世界中のアクション映画界でフォロワーを増やし続けている。さらに80年代は『男たちの挽歌』(1986)などの作品でジョン・ウー監督が描いた、華麗かつファンタジックなガンアクションが登場し、『マトリックス』(1999)など世界中の映画のガンアクションに強烈な影響を与えた。

1990年代にジェット・リー主演作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズ(1991~1997)で使用されたワイヤーアクションは、『マトリックス』に導入されて以来、世界中のアクションの主流テクニックとなっている。そして2000年代に『SPL/狼よ静かに死ね』(2005)、『導火線 FLASH POINT』(2007)などの作品でドニー・イェンが開拓した総合格闘技を取り入れた格闘アクションは、「ジョン・ウィック」シリーズ(2014~2023)などに影響を与えている。

そして今、新たなアクション映画の流れを変える香港映画が誕生した!現在公開中のソイ・チェン監督作『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024)である。

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

舞台は1980年代の九龍城砦。香港に密入国し九龍城砦に迷い込んだ若者・陳洛軍(レイモンド・ラム)がそこで出会った九龍城砦のボス龍捲風(ルイス・クー)と彼を慕う若者たち(テレンス・ラウ、トニー・ウー、ジャーマン・チョン)と共に、九龍城砦の存亡をかけて黒社会の大ボス(サモ・ハン)や配下の王九(フィリップ・ン)たちと戦う、という熱い友情がスパークする物語に常軌を逸した格闘シーンが大量トッピングされたコンマ1秒も瞬きできないほど濃密な映画である。

そんな本作のアクション監督を務めたのは長年にわたり『SPL/狼よ静かに死ね』、『導火線 FLASH POINT』などのドニー・イェン作品を支え続け、ハリウッド映画『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021)のアクション監督も務めた谷垣健治。今回、谷垣氏に本作のアクションについてディープに語ってもらった。(聞き手:ギンティ小林)

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

幻のドニー・イェン版『九龍城寨』

――谷垣さんは10年くらい前から雑誌の連載で「九龍城を舞台にしたアクション映画に参加するかもしれない」と何度か書いていましたよね。それが今回の『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』(2024)なんですか?

谷垣:ああ、あの頃言っていたのはドニー・イェン主演で九龍城砦を舞台にした企画のことです。

――そんな企画があったんですか!?

谷垣:確かゴードン・チャンが監督、ドニー主演で進めていたんですよ。

――ドニーが出演した『画皮 あやかしの恋』(2008)の監督ですね。ゴードン・チャン監督版『九龍城寨』でドニーが演じる予定だったキャラクターが気になります!

谷垣:今回の映画に登場するキャラクターではなかったです。僕も詳しいことは聞いてないですがドニーの役は郵便配達の男みたいな感じだったような。だから、最初に今回の話が来た時に「これがもともとのドニーの企画だったとしたら、ちょっと俺はやれない」と言ったら、「それとは全く別の話だから気にすんな。やってくれ」って言われて(笑)。

――『トワイライト・ウォリアーズ』のアクション監督はいつ依頼されたんですか?

谷垣:最初に話が来たのは、たしか2021年の春先かな。でも、「今度こういう映画作るから頼む」って、いろいろ話が来る企画のなかのひとつだったので、その時点では実現するかどうかもわからないんですよ。何よりコロナの真っ最中だったんで出国できるかも怪しい。

「本当にやるんかいな?」という感じだったんだけども、6月ぐらいになって急に「広州に ロケハンに行ってくる。それで、やるかどうか分かるから、やる場合は8月ぐらいから開けてくれ」と言われたんですよ。で、実はロケハンの時に流れそうになったんですけど、そこで会った中国の会社が投資を決めて撮影できることになった、という奇跡のようなことがあったらしいんですよ。結局、2021年の8月ぐらいにやる予定がちょっと遅れて、11月にインした感じですね。

――2021年頃に谷垣さんから「いま関わっている映画に『超級護衛スーパー・ボディガード』(2016年)に主演した岳松(ユエ・ソン)が出るかもしれない」と言っていたのですが、それは『トワイライト・ウォリアーズ』だったんですか?

谷垣:よくおぼえてますね!この映画ですよ(笑)

――岳松はかなりクセと自己愛が強い感じのアクション俳優なので、何役の候補だったのかが気になります(笑)。

谷垣:それは・・・秘密です(笑)

――ところで王九を演じたフィリップ・ンは香港生まれのアメリカ育ちですよね。

谷垣:ソイ・チェン監督がフィリップ3回ぐらい面接してましたね。3回目の面接の時だったかな、いろんな衣装を試していく中で監督がフィリップにグラサンをかけさせたり、長髪にしてみたりして彼の個性を色々封じていったら、個性が跡形もなくなって面白くなっていったのを覚えてます。

――フィリップ・ンが演じる王九はカンフー映画版ジョーカーのような強烈なキャラクターですが、そんな経緯があったんですね。

谷垣:普段のフィリップは、ずっっっとジョークを言い続けてるような感じのタイプです。。アメリカ育ちのカンフー好きな兄ちゃんだから超ナイスガイではあるんだけど、王九のような調子乗りな一面も確実にあるんですよ(笑)だから今までの作品の実直な感じとは違った役柄で、彼の良い面をちゃんと活かせたと思います。アクション俳優にはそれぞれの得意な芝居の型があるから何らかの形で違うアプローチをしてもらうと、ものすごくよくなることがありますね。例えば、ドニーの場合だと「イップ・マン」(2008~2019)で長袖のチャイナ服を着せたら、今までのイケイケでアグレッシブな役柄とは違った、いわゆる「達人」的な品格が出た。日本だと『るろうに剣心 京都大火編』(2014)で田中泯さんをずっと正座させるとか(笑)

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

――各キャラの個性的な戦い方について教えてください。主人公の陳洛軍(レイモンド・ラム)はオープニングの地下格闘技の時、床に散らばったガラスの破片を拳に擦りつけて殴ったり耳を噛んだりする、勝つためなら何でもやるキャラクターでしたね。

谷垣:その通りです(笑)この映画は、サモ・ハンやルイス・クーたち上の世代はカンフーのたしなみがある設定で、若い4人(レイモンド・ラム、テレンス・ラウ、トニー・ウー、ジャーマン・チョン)はカンフーの使い手じゃないから熱血で押すヤンキー・アクションで良いというか、要するに「ハイロー(「HiGH&LOW」シリーズ)」ですよ。『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005~2011)の世界観で「ハイロー」のようなヤンキー・アクションをやりたかったんです(笑)

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

――すごいコンセプトですね(笑)若い4人に対する上の世代の黒社会のボスたちは皆、クラシカルなカンフーを使いますね。

谷垣:サモ・ハンたち上の世代は若い頃、近所のビルの屋上にあるトタン屋根みたいな道場でカンフーを習っていたであろうという設定です。実際にそういう時代だったでしょうし。

――『イップ・マン 葉問』(2010)に登場したようなカンフー道場で修業したんですね。

谷垣:そうです。十二少(トニー・ウー)のボスのタイガー(ウォン・タッパン)は本編ではカットされましたが実は鶴拳を使う、という設定なんですよ。

――タイガーは映画の中盤でレイモンド・ラムと戦いますね。

谷垣:そのシーンで、よく見たら鶴拳を使ってるんです。「タイガーは何拳がいいかな?」という話になった時、ソイ・チェンから「こういうのがいい!」って送られてきたのが、ショウ・ブラザーズ社長ランラン・ショウが鶴拳をやっている写真なんですよ。これです(とスマホで見せてくれる)

――公園でお爺ちゃんが太極拳をやっているようなまったりとした鶴拳ですね(笑)

谷垣:ソイ・チェンは「こういうのもいいよね」って鶴拳か太極拳を使わせたがっていました。それで僕は、 ちょっとだけオフビートな感じにしたいのかな、と思ったんです。つまり、むっちゃ凄い戦いを見せるよりは、ちょっとおかしさがある感じにしたいんだな、って。ランラン・ショウが鶴拳をやる写真って僕らにしたら「ぷぷ」って吹きそうになるじゃないですか。

――ランラン・ショウの写真からそこまでニュアンスを汲み取っているのがすごいです!

谷垣:かといって太極拳は経験がない人がやるとバレやすいでしょ。その点、鶴拳は構えたら伝わるから「タイガーは鶴拳でいこうか」ってなったんです。 

――サモ・ハン、ルイス・クー、ウォン・タッパンと共に黒社会のボスの一人を演じるリッチー・レンもカンフーの使い手でした。

谷垣:リッチー・レンはこの映画の前の作品(『烈探』/2022)で一緒だったんですよ。警察の話なので彼にCQC (クローズドコンバット)をやってもらったんですが、こっちは完全にカンフーだから練習の質が全く変わって(笑)彼には洪家拳っぽい構えをしてもらいました。

トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

©2024 Media Asia Film Production Limited Entertaining Power Co. Limited One Cool Film Production Limited Lian Ray Pictures Co., Ltd All Rights Reserved.

――この映画は、クラシカルなカンフーとヤンキー・アクションが同時に登場して、それが相乗効果を上げてハードコアな格闘アクションになっているところが面白いです。

谷垣:よくMMAの選手がカンフーの達人をぶっ潰すような動画があるじゃないですか。ああいう感じにしたかったんですよ。なんか説教かましてるうちに「うるせえわ!」って感じになればいいかなと思って、カンフーの構えをしている人をジャーマンスープレックスで脳天から落としたりしました(笑)

秘密兵器は力強く叩きのめす!

――主人公の陳洛軍はクライマックスの殴り込みの前に、鉄パイプなどを溶接してピッケルのような形状の独創的な武器を作りますよね。あの展開に燃えたんですが、あの秘密兵器のデザインはいかにして決まったんですか?

谷垣:僕とソイ・チェンで色々な案を出して最後にソイ・チェンが「これが良い」って選んだんですよ。

――他にどんな武器の案があったのかが気になります!

谷垣:変形した形のナイフとか色々考えたんだけども、「力強く叩きのめす感じなのはこれが一番良い」という理由で決まりました。陳洛軍が武器を自作するシーンは刀鍛冶のイメージがあったんです。だから溶接することで刀鍛冶のような雰囲気を出せるかな、と思ったんですよ。

『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』は大ヒット上映中

WHAT TO READ NEXT