REVIEWS丨2025.04.15
正義とは何か? 殺人は正義になりえるのか? 真っ向から斬り込む… アクションとコメディは健在も前作から大きく変化を遂げた『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』

©︎2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED
2015年に公開されたリュ・スンワン監督の大ヒット作「ベテラン」の続編『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』は、前作のコミカルな要素を抑えつつ、警察という存在の暴力性に焦点を当てる。エンタメとしての力は健在だが、それだけじゃない。シリーズの主人公を映し出す鏡のような構造をもった、かなり内省的な作品に変化している。
主人公の型破りな刑事ソ・ドチョル(ファン・ジョンミン)は本作でも冒頭から全開。違法カジノへの突入シーンでは、カメラが上下左右に動きながら臨場感たっぷりの潜入作戦を描く。このあたりは前作を彷彿とさせるテンポの良いアクションとユーモアで、ドチョル率いるクセ強めな捜査チームも健在。オープニングはしっかり「ベテラン」っぽさを残している。しかし、法の網をかいくぐった犯罪者たちを標的にした「制裁型」殺人事件が次々と発生。ここから続編とは思えないほどトーンが変化、雰囲気が一変する。
ネット上では「制裁型」殺人事件を行う正体不明の復讐者は「ヘチ」と呼ばれ、ネット世論を味方につけ、記者上がりの人気YouTuberの扇動も手伝って次第に“ヒーロー”として崇められていく。ヘチという名前は、東アジアの伝説に登場する“善悪を見極める霊獣”に由来している。つまり彼は、人々の怒りと「裁かれなかった罪」への憤りを背負って動く存在だ。このヘチの暴力というのは、ドチョル自身の行動と紙一重なのが本作が投げかける問いだ。

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物語にスパイスを加えるのが、新人刑事パク・ソヌ(チョン・ヘイン)。ドチョルに憧れるファンのような存在。ナイフを持った犯人を足技で制圧しネット上では「UFC警察官」と呼ばれるほど荒々しい逮捕術で知られている。ネット社会における“正義の見せ方”を熟知する存在として描かれており、旧来の警察像とのコントラストが面白い。ヘチとの関係を匂わせる展開もあって、二人の対比がどんどん鮮明になっていく。ソヌはドチョルの“影”のような存在として描かれていて、ドチョル自身が、自らのやり方を見直すきっかけにもなっていく。
本作の最大の見所である一つでもあるアクションシーンは健在だ。リアルさと笑いが同居していて、CG頼みなバトルとは一線を画す。冒頭のコメディ要素満載のコミカルなアクションも面白いが、特に圧巻なのは、雨の中で繰り広げられる滑って転んで殴っての屋上のバトルシーンは観客を魅了するだろう。
前作が軽快なアクションと笑いで観客を魅了したのに対して、『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』は、ただの続編ではない。警察の正義と法の限界をインターネット時代の自警行為という切り口から鋭く掘り下げていく。痛快アクションで盛り上げつつ、「正義とは何か」「殺人は正義になりえるのか」という問いに真っ向から向き合う。

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前作が好きだった人にとっては予想外の展開もあるが、重たくなりがちなテーマを乗り越えて、終盤で原点回帰するようにギアを切り替えてくるあたり、リュ監督の手腕が光る。ダークさとエンタメが絶妙なバランスで仕上がっている作品になっている。