MOVIE丨2025.05.22
ボウリング場を舞台に“現代に巣⾷う悪魔”を炙り出す、衝撃のネオ・ノワール『サターン・ボウリング』
現代のフランスを代表する映画監督のひとり、パトリシア・マズィ監督による最新作『サターン・ボウリング』が、2025年秋に日本公開が決定した。
父の遺産は呪われたボウリング場…… 正反対の兄弟の周囲で若い女性を狙った連続殺人事件が発生。現代に巣食う悪魔を炙り出す、衝撃のネオ・ノワール。本作は、「ロカルノ国際映画際 2022」金獅子賞ノミネート。そして、「カイエ・デュ・シネマ」2022年ベストテン第6位に選ばれている。
『走り来る男』や『ポール・サンチェスが戻ってきた!』などのパトリシア・マズィ監督による長編第5作目。父親の罪によって取り返しのつかない傷を負った2人の異母兄弟の奇妙な物語だ。男性の悪に焦点を当てたイヴ・トマの脚本は、「父の亡霊」という超自然的な要素を含みつつ、恐怖やトラウマ、ネグレクトがいかに救いようのない不幸のスパイラルを形成するかを隠喩的に描いている。また、『落下の解剖学』(24)や『ナイフ・プラス・ハート』(18)などの撮影監督シモン・ボーフィスによる陰鬱で美しいカメラ、俳優の凄まじい演技によって強化されたグランジなネオ・ノワールの雰囲気は、マズィ監督がアートハウス・カルトの地位におさまらないことを示している。マズィ監督は、ニコラス・レイ、パク・チャヌク、大島渚などにオマージュを捧げながら、古典的なフィルムノワールの方法を踏襲し、かつてない衝撃とともに現代的な暴力の問題を炙り出す——。
アルマン(アシル・レジアニ)は野獣のように街を徘徊し、時々働くクラブ「ル・カルゴ」の外にある他人の車に寝泊まりしていた。ある日、警察官である異母兄弟のギヨーム(アリエ・ワルトアルテ)が父親の死を告げに現れる。彼らの父親はボウリングが趣味の熱心な大物ハンターで、ボウリング場「サターン・ボウリング」をギヨームに残していた。疎遠になっていた弟と和解するため、ギヨームはアルマンにボウリング場を経営するチャンスを与え、父のアパートに引っ越すことを提案する。自分を捨てた父親への憎しみから距離を置いていたアルマンだったが、彼が店を仕切るようになるや否やすぐに問題が発生する。父の狩猟仲間の大所帯にボウリング場に頻繁に出入りするのをやめるよう要求したのだ。一方、猟師たちは、動物愛護活動家のスアン(Y・ラン・ルーカス)にメディアで挑発され、暴力事件になりかけたところをギヨームによって阻止される。偶然に出会ったギヨームとスアンがロマンスを育む最中、地元の墓地から複数の死体が発見され、若い女性を狙った連続殺人が進行中だとわかるが……。

© Ex Nihilo – Les Films du fleuve – 2021

© Ex Nihilo – Les Films du fleuve – 2021
この映画を監督する上でのチャレンジの1つが暴力をどう扱うかということでした。観客に見せるべきか?それとも他の多くの映画がそうであるように見せないほうが正しいのか?悩んだ末、見せないという選択肢だと“暴力はどう生まれるのか?”という問題から逃げることになるのでは、と考えました。そして逃げないことにしました。勇気を持たないといけません。この映画で描こうとしたのは現代の悲劇、今日の世界に根ざした“フィルム・ノワール”でした。『サターン・ボウリング』は世界の悪に対する解決策を何も示しませんし、何も解決しません。それどころか暴力や災難、権力、そして男女の関係についてさまざまな疑問を投げかけます。これらの疑問が開かれたまま、率直に問われる形にするため、この映画をはっきりしたものにしたい、無駄をそぎ落としてプリミティブなものにしたいと思いました。
(パトリシア・マズィ監督)
『サターン・ボウリング』は2025年秋に公開