REVIEWS2025.04.13

モノマネ芸人が“大統領暗殺未遂犯”に 陰謀論者になるメカニズムが分かるドキュメンタリー『キングス・オブ・テュペロ: 2人の男と”毒しき”陰謀論』

Netflixドキュメンタリー『キングス・オブ・テュペロ: 2人の男と”毒しき”陰謀論』は、米国のショービジネス界でキングとなったエルヴィス・プレスリーの“モノマネ”で、一度はローカルスターとなったものの、その後、陰謀論に傾倒し、やがては米大統領に猛毒シリン入りの手紙を送りつけた大統領暗殺未遂事件の容疑者として扱われることとなる田舎育ちの冴えない男、ケビン・カーティスの生き様を、本人や家族らの証言を交えつつ追う作品。

しかしこのカーティス、その素性に関する詳細や、彼の思想を知れば知るほどに、なんとも悲しく、ある意味、ナチュラルに“残念な人”なのだ。もともとスクールカースト最下層の“陰キャ”であったというカーティスは、“おらが村の誇り”ともいえる伝説のスター・エルヴィスのモノマネをすることで人気者となり、やがては兄と組んでモノマネタレント化することに。テレビ出演まで果たし、町へと繰り出せばもちろんモテモテ状態の人気者となったのだという。しかしその後、彼らのショーにコーラス担当で参加するようになった女性と結婚。その後、子宝にも恵まれたことから、生活を安定させ、より多くの収入を得るために、清掃業者へと転身。さらにその縁から、近隣にある巨大医療センターの清掃スタッフへと採用されることとなったのだそうだ。

医療センターの清掃スタッフとなってからというもの、収入は大きく増え、家族で暮らす家も買うことができ、順風満帆そのものの家庭生活を送ることとなったカーティス。しかしそんな矢先、彼は院内での作業中にのどが渇き、飲み物でもないかと勝手に冷蔵庫を開けてしまったことが原因で、職を失うこととなる。実はカーティス、冷蔵庫内に保管されていた“生首”状態の遺体を見てしまったのだ。おそらくは単に検視ないし研究目的など、何らの事情で安置されていたもなのに過ぎないのであろうが、これがよほど衝撃だったのか、カーティスは嫁に止められたにもかかわらず、翌日出勤した際に、興奮気味に自身の“生首体験”を触れ回ることに。すると瞬く間にこの話題が院内を駆け巡り、彼は上層部に呼び出されると、「進入禁止エリアへの勝手な立ち入り」という理不尽な理由で即時解雇を言い渡されてしまう。

ようやく人生設計が整いはじめたかという矢先に、仕事を失ったカーティスは、問題の“生首”が、遺体転売ビジネスなどに使われているのではないかと勝手に疑いはじめ、ネットでの情報を集めようと、パソコンを衝動買い。以後、いわゆる“ネット民”化していくこととなる。スクールカーストの底辺から成りあがり損ね、ネット民型陰謀論者に成り果てた挙げ句、ネット上でも迷走し続けたカーティスがどのような形で、“大統領暗殺未遂犯”として扱われるようになっていくかは、実際に本編でご覧頂ければと思う。
一度でも出世街道からこぼれ落ちると、その理由がどうであれ、その後は社会のボトムで息を潜めながら“ありもしないワンチャン”を信じるか、カーティスのような妄想に浸って暮らすか、はたまた、成功者たちに羨望と怨嗟の眼差しを向けて呪い続けて生きていくという現実もある。そうした意味では、現時点で“上手いこと生きている”という人にとっても、明日は我が身、また、自分のすぐ近くには、こうした人々が少なからず存在しているだろうという視点でも必見のドキュメンタリーとなっている。

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