REVIEWS2025.03.20

店員を全裸に… “変態イタ電性加害者”は、なぜ犯行を繰り返せたのか? Netflixドキュメンタリー『その電話に出るな』

その電話に出るな

Netflix

Netflixドキュメンタリー『その電話に出るな』は、90年代初頭から10年ほどの期間、米国内にある飲食店をターゲットに起きた“イタ電”による連続性被害事件の顛末を、被害者を含む関係者らの証言を交えつつまとめた作品だ。

この事件は、現職の警察官や刑事を名乗る犯人が営業中の飲食店に電話をかけ、その店の責任者などに対し、ありもしない事件の“捜査”という名目で、女性従業員のボディチェックをさせるという前代未聞のものであった。要は電話による“遠隔性犯罪”(教唆)ともいうべき奇妙な犯行なのだが、その被害たるや実に深刻で、女性たちは、何ら身に覚えのない(というかそもそも存在しない)罪で全裸にさせられ、なかには同僚をはじめとする関係者との性行為などを強要されるケースもあったという。

結局、捜査関係者による執念が実る形で、当局は刑務所で働く看守の男を逮捕(しかし、この男は証拠不十分で後になぜか無罪放免となっている)。以後、この事件はピタリと発生しなくなったというが、男の逮捕までの間に、何年にも渡って同様の事件が各地で発生し続けていた。しかも事件の性質上、警察に被害届の出ていないものもあるだろうから、実数としてはそれこそ“数え切れない”ほど。犯人そのものの異常性については言うに及ばずであるが、そもそもこのような事件が頻発するという事態が数年も続くという、異常事態が続いていた。

この“イタ電性加害者”、何年もの間、ひたすら各地のファストフードショップなどへの架電を黙々と繰り返していたわけだが、実はこの男が野放しとなり、犯行をやり放題であったのは、大きな要因があった。犯行に際して公衆電話を使うなど、素性を隠して犯行に及んでいたというのもあるが、最も大きな要因は、何人もの従業員が被害に見舞われて続けている某大手ファストフード店が、なぜかその情報を各店舗に共有せず、何ら対策を講じていなかったことにある。同社の本部では、被害を把握していたにもかかわらず、各店舗への注意喚起を行うことなもなく、「イタ電注意」の貼り紙さえなかったのだ。それどころか、後にこの点を突かれる形で、被害に遭った元女性従業員に訴訟を起こされると、彼女に対し、「犯人と結託して慰謝料をせしめようとしている」と主張した。

結局、この訴訟は企業側が負け、ある種の“見せしめ”であり“戒め”として、被害女性にはおよそ6億ドルもの金が支払われるという結末を迎えることとなったのだが、そもそも、被害に遭った女性も、犯人の口車に乗って性加害の実行役を担ってしまった責任者も、そもそもこの企業が雇っていた従業員。しかも犯行現場は営業中の店舗であり、彼らは就業中であった。そこで起きた事件が隠蔽され続け、いたずらに被害が拡大してしまったという謎多き奇妙な事件。このドキュメンタリーは、企業における危機対応という観点からも、かなり興味深い作品であるといえるだろう。

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