REVIEWS2024.12.10

悪ふざけが“現実社会”を脅かす 匿名ネットコミュニティはどのように暴走していったのか? “アノニマス”誕生への軌跡

アンチソーシャル・ネットワーク: 現実と妄想が交錯する世界

The Antisocial Network: Memes to Mayhem. Kirtaner in The Antisocial Network: Memes to Mayhem. Cr. Courtesy of Netflix © 2024

面白がってやった悪ふざけが、知らず知らずのうちに度を越してしまい、シャレにならない事態を招いてしまう…。誰しもそんな体験は少なからずあるかと思うが、誰もが「対等」に接する場面の多い“顔の見えない”ネット上のコミュニティでは、そうした“やらかし”が、深刻な事態を生むことは多い。

Netflixで配信中の『アンチソーシャル・ネットワーク:現実と妄想が交錯する世界』は、15歳の少年moot(ムート)が立ち上げた米の掲示板サイト「4chan」に集まったユーザーたちが、その後どのような運命を辿り、また、彼らが現実社会に与えた影響などをまとめたドキュメンタリー作品だ。

その名が示すように、もともと「4chan」は、日本の「2ちゃんねる」を元に生み出されているが、それゆえに集うユーザーもまた、ティーンが多いとはいえ、基本的には“本家”と同様に、“非リア充”タイプの人々が目立つこととなったのである。彼らはその黎明期、「4chan」上で、いわゆる“ネタ”を中心に、現実社会ではなかなか周囲と共有できない価値観や趣味嗜好などを分かち合うことで、急速に互いの熱量を上げる形となっていくこととなったが、そうしたある種の牧歌的ともいえる時期を過ぎ、やがてサイトが円熟味を帯びるようになると、捻じれた自己顕示欲や承認欲求に突き動かされてか、彼らのなかには、現実社会への派手なアプローチを開始する者が現れることとなった。

彼らは自分たちの信じる“正義”を行動として世に示すという形で、現実社会の人々や組織に対する攻撃を始めることとなる。とはいえ、当初、その多くは、それこそ気に入らない教師相手にイタズラを仕掛けるようなノリであったのかもしれないし、現実社会で感じている不平不満を発散させるだけのささやかな反抗であったのかもしれないが、これが思いのほか、現実社会で大きな反響を呼ぶに至ると、そこで彼らは“妙な手応え”を感じてしまう。実はこの段階で、「4chan」ユーザの中でも過激な行動を起こすタイプの若者たちは、後に世間を騒がすこととなるネット上の犯罪集団「アノニマス」の原型ともいえるコミュニティに足を踏み入れてしまっており、傍目に見るとそれは既に“踏み越えてはならないライン”をオーバーランしてしまうレベルのものであったのだが、担い手である彼ら自身は、まるでピンボールのハイスコアでも競いあうかのような“ノリ”で行動していたのである。

2011年、米国内で金融問題の責任者を追及するムーブメントが巻き起こると、彼らは「4chan」も「アノニマス」もよく知らないような“現実社会の人々”に合流する形で、ニューヨークを舞台に抗議活動を行う。しかし当局がとった対応は、「アノニマス」の人々が期待していたものではなく、力での鎮圧。自宅でPCに向う者同士が、仮想空間の中で培いあった自信とノウハウは、“現実社会での拳”により、呆気なく粉砕されることとなってしまったのである。この一連の騒動で、ある者は逮捕されて懲役刑となり、ある者は家を捨てて逃亡生活を余儀なくされなど、彼らはここでようやく“現実社会ならではの容赦のなさ”を肌で感じることとなったが、そんな彼らも元を辿れば、当初「4chan」に集い、“ネタ”で馬鹿笑いをしていたような、それこそどこにでもいる“ネットオタク”の少年少女たちなのである。それがいつしか、家族や友人の知らぬ間に“ネット活動家”となり、気づけば政府から追われる“ネット犯罪者”に…。敷居の低い入り口であるだけに、なんとも恐ろしいところである。

さて、その後も捕まらなかったユーザーの中には、さらに地下に潜る形で、「アノニマス」としての活動を続けている者もおり、それが大統領選をはじめとする米国内での様々な事象に、今なお大きな影響を与え続けているのだという。彼らには彼らなりの“正義”があるのかもしれないが、大義名分さえあれば犯罪行為でさえも厭わずという、その傍若無人な“ネット暴徒”ぶりは危険そのもの。今後、社会からの審判を下される日が訪れるのか、はたまた、彼らの信じる正義が、現実社会を動かすこととなるのか、注目したいところだ。

『アンチソーシャル・ネットワーク:現実と妄想が交錯する世界』はNetflixで独占配信中

WHAT TO READ NEXT